口座保有率はたったの2割。仮想通貨発行をにらむカンボジアのFInTechとは


今やフィンテック大国となった中国はもとより、東南アジアをはじめとする新興国では急速にフィンテックが浸透してきています。日本でフィンテック化が進まない理由として、現金が好まれていること以外に銀行口座の保有率の高さが挙げられます。

日本では成人のほぼ100%が保有している銀行口座も、インドネシアでは49%、ベトナム31%、カンボジア22%と新興国はいずれも低く、銀行口座代わりに使えるフィンテックによる送金・決済システムはこういった国で重宝されているのです(世界銀行の「2017年版 金融包摂データベース(グローバル・フィンデックス)」より))。

レガシーコストもなく、新しいものを取り入れやすい新興国とフィンテックは、とても相性の良い組み合わせといえますが、なかでも注目されているのが「フィンテック先進国」と呼ばれるカンボジアです。今、世界中から注目されているフィンテックはなぜカンボジアで発展したのでしょうか。

フィンテック発展のキーワードは「米ドル」

カンボジアでは依然として国外へ出稼ぎに行く労働者が多く、彼らはそこで得た賃金を国内にいる家族に向けて送金しています。このような状況の中でも、カンボジア国民のほとんどは銀行口座を持っていません。そのため、人を介して家族に現金を届けるなど、正規の金融システムの外から国際送金を行っている例も多くありました。

しかし、銀行を介さない国際送金はマネーロンダリングや不正な金銭のやりとりにつながることが懸念されます。そこへフィンテックによる送金システムが導入されたことにより、カンボジアの国民はより安全に素早く、確実に家族へ送金を行えるようになりました。

また、フィンテックによる決済サービスも利用されています。利用するだけで飲食代が割引になるなど、豊富なサービスを展開している「Pi Pay(パイペイ)」はカンボジアで人気の決済アプリです。

送金システムや決済サービスだけではなく、現在、カンボジアには多くのフィンテック企業が進出しています。その背景にあるのは、米ドルの流通です。カンボジアでは使われている通貨のほとんどは米ドルで、どんなに小さなお店であっても米ドルが利用できます。

新興国の通貨はレートが安定せず、投資を行うにはリスクが高いというデメリットがあります。ところが米ドルがおもな通貨になっていることにより、企業や投資家は為替リスクの低いカンボジアへ容易に参入できるのです。今ではカンボジアのフィンテックは送金システムや電子マネーによる決済にとどまらず、融資や自動車・農業機械のリースにまで及んでいます。

独自の仮想通貨「Entapay」の発行を政府が検討するねらいとは

さらに、仮想通貨が世界的に広まりゆく中、政府が独自の仮想通貨「Entapay」の発行を検討しています。発行されれば新たな通貨として、カンボジアで大きく広がっていく可能性があります。

先ほど「米ドルの流通が企業参入を後押ししている」と述べましたが、米ドルありきの状況はカンボジアにとって必ずしも良い話とは限りません。成長著しいカンボジア経済において、米ドルから脱却し本来の通貨であるリエルの地位を押し上げ、政府が金融を掌握していくことは政府にとって今後の重要なミッションといえるでしょう。

また、カンボジア政府が仮想通貨開発に乗り出したのは、アメリカからの経済制裁が影響していると考えられます。2018年2月、アメリカはカンボジアでの選挙の結果が民意を反映していないとして、カンボジアに対して経済制裁を行う声明を発表しました。Entapayは、リエルの補助的な役割を果たすだけではなく、こうしたアメリカの経済制裁から逃れるための手段の一つとしてとして利用する狙いがあるようです。

カンボジアより前には、経済危機を脱するべくベネズエラが政府主導の仮想通貨「ペテロ」を発行しました。こういった動きは今後も増えていく可能性があります。長らく続いた米ドルの世界基準通貨としての地位は、すでに他の先進国の通貨によって危うい物となっていますが、新興国が作る仮想通貨によってさらなる打撃を受けるかもしれません。

カンボジアの行く末

貧しい国であったはずのカンボジアは、近年急速に経済が発展しており、地価の上昇や賃金の上昇が見られるようになっています。しかし本来の通貨であるリエルはいまだに信用が低く、米ドル依存からの脱却にはまだまだ時間がかかるでしょう。

カンボジアと同じく自国の通貨の信用が低い国では、経済制裁から逃れる手段として、または自国の通貨の補助的な役割として仮想通貨を導入する例が出てきました。カンボジアでは、まだしばらくは米ドル主導の状況は変わらないだろうといわれていますが、フィンテックによって経済活動がさらに活発化していくことで、カンボジアという国が大きく様変わりする可能性もあります。

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