2年で東芝を黒字化!世界最大の白物家電メーカー「美的集団」の正体


日本の製造業が苦境に立たされ始めて久しい昨今、台湾のホンハイによるシャープの買収が日本のニュースを騒がせたことは記憶に新しいです。

シャープがホンハイに買収された年、東芝は中国の美的集団(マイディアグループ)という家電メーカーに白物家電事業を売却したのですが、世間ではシャープ買収の印象があまりにも強すぎたことから、美的集団の存在はあまり注目されませんでした。

日本ではあまり馴染みのない美的集団ですが、同社は売上高4兆円を誇る世界最大の白物家電メーカーです。

美的集団はもともと「安くて丈夫な」家電を作る田舎の零細企業だった

もともと薬用のガラス瓶とペットボトルの蓋の製造会社として1968年に設立された同社は、自動車のブレーキバルブに使われるゴム部品を始めとした様々な商品の製造などを手がける、中国の田舎ではどこでも見かける至って普通の製造メーカーでした。

同社が家電製造にシフトするキッカケとなったのが1980年。電気扇風機の大ヒットを機に、炊飯器や電子レンジといった家電分野に本格的に参入し、「安いけど壊れない」と評判を呼び、中国市場で圧倒的な支持を得ました。

とは言っても美的集団の認知度はあまり日本で高くありません。それは同社が中国市場でシェアを拡大するため長年中国国内に注力してきたことが理由に挙げられます。

また、海外市場では自社ブランドでの事業展開は行わず、海外家電メーカーのOEM(相手先ブランドの生産)供給による輸出増加を優先してきたことも理由の一つです。
このように日本では認知度は高くないものの、中国市場で圧倒的なシェアを誇り、海外大手メーカーのOEMをどんどん引き受けることで業績を伸ばしてきた美的集団は、ここにきて海外企業の買収に注力し始めます。

美的集団が赤字だった東芝の白物家電部門を買収した理由

美的集団が東芝を始めとした海外企業の買収に力を入れ始めたのは、自社ブランドの将来的な海外展開を見越してのことでした。

安価な労働力を武器に価格競争に打ち勝ち、OEMで実績と売上を高める戦術は中国企業の典型例ともいえますが、美的集団はこれを最大の弱みとも考えていたのです。

と言うのも、自社ブランドを海外で確立しなければ、この先ずっと海外大手メーカーのOEM工場にとどまってしまうという危険性があり、人件費が高騰し続ける中国でOEM工場の未来が明るくないことは誰の目にも明らかでしょう。

しかし、これまで中国市場を中心にビジネスを展開していた美的集団にとって、まったくのゼロから自社ブランドを海外展開することには大きなリスクが伴います。

そこで美的集団がとったプランが海外企業の買収です。海外ブランドを買収し自ら経営することで海外での経営ノウハウを蓄積し、それを活用して最終的に世界規模で自社ブランドを展開していく狙いがありました。

そこで目に止まったのが東芝。1990年代から協業関係にあった東芝の白物家電部門に目をつけた美的集団は、当時赤字だった同部門を537億円で買収しました。

美的集団は東芝の組織体制を刷新し、美的集団で採用されている組織体制を導入して現場の意思決定の高速化に着手したのです。

これまでの東芝では白物家電は「大物(冷蔵庫や洗濯機)」と「小物(炊飯器など)の2つの事業部門があるだけでしたが、買収後には商品ごとに事業部を設置することで権限を分散させ現場レベルで高速な意思決定が可能になりました。

その結果、買収からわずか2年ほどで東芝は黒字化に成功し、美的集団の戦略は次のフェーズへと移行します。

世界4大ロボットメーカーに名を連ねるKUKAを買収した美的集団

美的集団は東芝の買収を機に企業買収に本格的に乗り出し、製造ラインの機械化を目指して、ロボットメーカーの買収に乗り出します。

その背景にあるのは、中国国務院が提唱する“量から質”への転換を掲げる次世代型中国ものづくり戦略である「中国製造2025」です。

美的集団でも自社高級ブランド「COLMO」の立ち上げによって量から質への転換を試みていますが、こうした中国企業の動きに合わせて、ハイエンドな設備やシステムの購入費に莫大な補助金が中国政府によって投入され、その代表格が「産業用ロボット」だと言われています。

中国は産業用ロボットで世界最大の需要地であるものの、ロボットの動作制御に関するサーボモーターやコントローラーといった「コア技術」の開発がうまく進んでおらず、有力企業がありません。

ロボットに関しては、ファナック(日本)、安川電機(日本)、KUKA(ドイツ)、ABB(スイス)から成るロボット界の「世界4強」に中国のロボットは遠く及ばす、日本には上記の2社以外にも川崎重工や三菱電機などの有力企業が存在し、非常に層が厚いロボット先進国なのです。

そうした中、美的集団は自国でのコア技術を開発するのではなく、買収によってコア技術を補填する戦略をとり、世界4強の一社であるKUKA(ドイツ)を買収、そして安川電機とも提携を組みました。

現時点でまだ目立った動きはないものの今後の動きに注目が集まっています。

美的集団は日本企業にとって脅威か、それとも戦略的パートナーか?

こうした美的集団の攻めの経営に対して、警戒感を示す人も少なくありませんが、少し視点を変えれば彼らから恩恵を受けることができるかもしれません。

実際、東芝は美的集団に買収されてから、「無風感」を感じられる新しいタイプのエアコンなど、これまでコスト面で採算が取れず着手できなかった商品の開発が可能になりました。

同商品は、冷房の使用時間が長くなり就寝時も付けっぱなしにするケースが増加したことで、長時間冷風に当たりっぱなしで不快感を感じたり体調を崩したりするユーザーがいる問題を解決するために開発されたものですが、美的集団の大規模なスケールメリットを生かすことで商品開発に至ったのです。

攻めの経営が特徴的な中国企業はよく脅威だと捕らえられがちで、美的集団が東芝を買収した際もネガティブな報道表現が使われました。

しかし、少し見方を変えれば美的集団から得られるものや学べることは多いのかもしれません。

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