アリババ創業者、ジャック・マーの動きから読み解くアフリカ経済の未来


2019年9月にアリババの会長職を退いたジャック・マーが、今後の活動先の一つとして、アフリカに対する慈善活動に関心を抱いているようです。

2017年頃からアフリカへの関わりを持ち始めたと言われるジャック・マーは、その後アフリカにおいて起業家コンテストなどを開催しています。さらに、2018年にはアフリカの青年起業家を支援するファンドを始動させ、10年間に渡ってサポートを続けていくことを計画しているのです。

アフリカと言えば、潜在的なポテンシャルの高さから注目を集め続けてきたものの、54か国それぞれで状況が異なることや、日本から距離が離れていることなども重なり、一概には状況を掴みにくいという側面がありました。

ですが、慈善活動という形でアフリカの起業家に関心を集めるジャック・マーの動きを読み解くと、アフリカ経済のトレンドや、今後の動向を掴むことができるかもしれません。

グローバル企業も苦戦する、アフリカ市場への参入


成長市場として大きく注目を集めてきたアフリカですが、近年の傾向としては、グローバル企業の苦戦などが目立ち、想定していたより市場の開発が進んでいないという状況があるようです。

例えば、これまでアフリカ事業に10億ドルもの投資を行ってきたと言われ、アフリカビジネスの先駆者であったスイスの大手食品メーカーであるネスレは、2015年にアフリカ事業の大幅縮小を行っています。

それに加え、バークレイズ銀行や、製菓大手のキャバドリーなどの著名なグローバル企業も、事業縮小や工場の閉鎖などによりアフリカ事業に対して慎重な姿勢を示しているのです。

アフリカ以外の国においても事業実績のあるグローバル企業であれば、新しい市場に対応するためのスキルや経験などは持ち合わせているはずです。

それにも関わらず、先述したような名だたる企業がアフリカ市場で苦戦を強いられている背景には、賄賂などの汚職やインフラの未整備といった、フロンティア経済ならではの障害が、現在においても解消し切れていないという理由があると言われています。

また、グローバル企業の多くは、既存のプロダクトを新興国の中間層に対して販売して事業を拡大しようと考えますが、アフリカにおいては購買力を備えた中間層の拡大が進んでおらず、プロダクトが市場に浸透しにくいという理由もあるのだそうです。

事実、世界銀行が発行しているビジネスのしやすさ指数や、トランスペアレンシー・インターナショナルによる腐敗認識指数などでアフリカ諸国は最下位近くに位置していることからも、アフリカは、ビジネスを行うことが難しいという特徴を持った地域と言うことができるかもしれません。

注目を集め始めているのは、市場創造型のイノベーション


もちろん、このような状況でも成長を遂げる企業があるのも事実で、そのような企業からは、「市場創造型イノベーション」という特徴を読み取ることができると言われることがあります。

市場創造イノベーションとは、その名の通り、それまで存在していなかったり、存在しつつも高価で消費者の手に届かなかったプロダクトやサービスを安価にリリースすることで、新しい市場を創造するイノベーションです。

特徴としては、現地のニーズをもとにして新しいプロダクトが生み出されているという点が挙げられます。また、市場の拡大を重視しているため、利幅の薄い事業に対しても積極的に投資がなされ、消費者がプロダクトを手に取ることができるように、原材料の調達から流通に至るまでの業務を統合するなどしてコストの管理も徹底して行われます。

そして、そこで得た低価格と低コストを活かしてさらに事業を拡大していくわけですが、そうした一環で、現地に新しい雇用やインフラが生まれ始めるようになりました。そのため近年では、アフリカ経済の発展という観点から、市場創造イノベーションへの注目が集まっているようなのです。

ナイジェリアを代表するサプライチェーンを築き上げた「トララム・グループ」


ナイジェリアで「インド・ミー」というインスタント麺の市場を生み出し、今では年間45億食ものインスタントヌードルを売り上げるまで大きく成長したトララム・グループは市場創造イノベーションの事例の一つです。

今ではナイジェリア国内において、最も愛される消費財とまで言われるインド・ミーですが、販売を始めた1988年当初は、ナイジェリアには麺を食べるという文化すらありませんでした。

ですが、簡単に作れたり、卵を入れるだけで栄養価が高くなるようなインド・ミーのインスタント麺であれば、必ずナイジェリアでも市場を作ることができると判断したトララム・グループは、ナイジェリアに長期的に投資していく決心をします。

例えば、当時のナイジェリアには整ったサプライチェーンが存在しておらず、工場から消費者の手元に届くまでに商品が盗まれたり、所在を見失ってしまう可能性がありました。そこで、トララム・グループは物流に投資することを決め、100台以上の車両を集め物流管理会社を設立したのです。

それが今では、トララム・グループ以外のナイジェリアの企業にもサービスを提供するようになり、ナイジェリアで最大級の運送会社として、サプライチェーンを構築する一端を担うようになっているのだと言います。

また、ナイジェリアは教育インフラも未整備であったため、人材のレベルを上げて会社の生産性を高めるために、トララム・グループはナイジェリアの教育インフラにも投資しました。

そのような投資が現在では、失業率や犯罪率の減少にも寄与しているそうですが、トララム・グループからすれば、あくまでビジネスでの成功を追求していたのに過ぎないのであって、それが結果的にナイジェリア経済への好循環を生み出すことに繋がっているのだそうです。

100万人以上の安定した雇用を産んだ映画産業「ノリウッド」


市場創造イノベーションの例としては、同じくナイジェリアで生まれた映画産業である「ノリウッド」も欠かすことができないものの一つに挙げられます。

生みの親とされるのは、もともとナイジェリアで電子機器店を営んでいたケネセウ・ネブエという男性です。当時、空のVHS式のビデオテープを店頭で販売していたネブエですが、すぐにナイジェリア人にとっては需要がないことに気が付きます。

そこでネブエは、自家製のコンテンツをVHSテープに記録して売るアイデアを考案しました。当時、ナイジェリアには映画館すらありませんでしたが、このテープがアフリカ全土で大ヒットし、ナイジェリアの映画産業「ノリウッド」が一躍有名になったのです。

今日では、33億ドルもの市場を有すると推計され、年間1500本もの映画を制作するなど、本数だけではハリウッドと競うほど成長しているノリウッドの市場。

この自国産業の発展に伴って生まれたナイジェリア国内の映画学校の数は50校を超えるとも言われ、政府も制作資金の融資を目的としたファンドを立ち上げた他、プライバシーや著作権に関連する法整備などを検討し始めるようになりました。

そして何より、ノリウッド産業は現在、ナイジェリア国内だけで100万人以上の雇用を生んでいます。グローバル企業などによる雇用と異なり、現地市場に特化し他国へと流れたりする恐れのない雇用であるため、ナイジェリアの安定した経済基盤となっているのだそうです。

アフリカで暮らす起業家たちによって、アフリカに本当の繁栄がもたらされていくのかもしれない


このように、アフリカ内部から生まれる市場創造イノベーションが、結果的に経済発展に大きく寄与していることを考えると、ジャック・マーが現地の起業家たちの育成に関心を寄せていることにも納得がいくかもしれません。

従来の考え方では、道路や電気などのインフラや、法制度を整えることがグローバル企業や投資を呼び込むことに繋がり、アフリカ大陸の繁栄にも活かされていくのではないかという認識がありました。

そのため、インフラや法制度改革に対して多額の資金が投じられてきたわけですが、グローバル企業が参入しにくい現状があると先述したように、アフリカの抱える問題は現代においても根本的には解消し切れていないという状況があります。

一方で、市場を生み出すことが結果的に国の経済の発展に寄与している市場創造型イノベーションの事例を見ると、先にイノベーションに投資して市場を作ることで、インフラなどの経済基盤は後から付いてくるものだと捉えることができるかもしれません。

その意味においては、今だ残るアフリカの諸問題を解決し、さらなる発展をもたらす要因として、市場創造型イノベーションは大きな効力を持っていると考えることもできるのではないでしょうか。

ジャック・マーは、ファンド設立の際に、「グローバル化とデジタル化のチャンスをつかまえさえすれば、アフリカにもアリババが100社誕生する」と述べて現地の起業家を鼓舞しており、デジタル分野における教育に重点を置いていくと主張しています。

さらに、メディア会社ウィー・トラッカーの調査によれば、アフリカのスタートアップ企業がベンチャーキャピタルから調達した資金の総額は、2018年に前年比の約3.5倍まで上昇しており、投資家からもアフリカの起業家に対する関心が急激に高まり始めているようなのです。

新しい市場が拡大し、それに伴って雇用が生まれ、必要な整備がなされていくことで国が繁栄するという、これまでとは違った成長のサイクルが今後、徐々にアフリカで生まれていくのかもしれません。

【この記事を読んだあなたにオススメ】
・実は次のフィンテック大国 メキシコの可能性
・アフリカこそFinTech(フィンテック)先進国、2030年は経済の主役に?
・今アツい?急成長中のインドのフィンテック分野のポテンシャル!
・アメリカの今は日本の3年後?人気のある職業を先取りする
・アリババのブロックチェーン戦略!ブロックチェーンは私たちの生活を豊かにする?