MaaS(マース)とは?移動の変革だけではない本質


人々の移動に関わるモビリティの分野において「車の所有」から「サービスの利用」という流れが着々と進んでいるようです。

特にインドなど、ミレニアム世代の多い国においてこの傾向は著しく、デトロイトが発表した「グローバル自動車消費者意識調査」では、インドのミレニアム世代の半分以上が車の所有や購入に疑問を感じていることが明らかになりました。

そうした一方でインド国内では、DrivezyやZoomcarといった新興のカーシェアリングサービスなどが、若者たちからの支持を集めているのだと言います。

このように、モビリティ分野のサービスが拡大している状況において、近年注目を集めているのが「MaaS」という概念です。

2030年までに、米国と欧州、そして中国の三地域だけで市場規模が150兆円を越すと試算され、他業種にも大きな影響をもたらすと予想されるMaaSとは、一体どのような概念なのでしょうか?

MaaSとは?「既存の交通手段を統合し、シームレスな移動体験をもたらす新しいサービス」


MaaS(Mobility as a Service)とは、あらゆる交通機関を統合し、目的地までの最適な経路探索や、経路に関する情報提供、そして決済までを一括で行うことができる新しいモビリティサービスの形態を意味しています。

これまでは、鉄道やバス、タクシーやレンタカーなどのそれぞれの交通手段は独立しており、サービスの利用や決済も、交通機関ごとで別々に行われていたのが一般的でした。

ですが、MaaSのサービスでは、それぞれの交通手段や料金がプラットフォーム上でまとめて管理され、目的地に合わせてパッケージ化されます。そうすることによって、ユーザーはシームレスな移動体験を得ることができるようになるのです。

MaaSという概念が生まれたのは2014年のフィンランドにおいてであり、その背景には、人々の移動がマイカーに依存していたことによる慢性的な渋滞や駐車場不足、そして環境問題などがあったと言われています。

当時のフィンランドでは、公共交通機関などのそれぞれのサービスの整備はなされていたものの、利便性や快適度が低く、結局はマイカーを利用する市民が多いという状況にありました。それが原因となって慢性的に交通問題が発生し、街の魅力が損なわれていたのです。

そうした問題を解決するためには、自分の車を所有していなくても移動に不便しないような選択肢がなければいけません。そこでマイカーへの依存から脱却するための代替案として考案されたのが、既存の交通手段を上手く組み合わせて最適な経路を提案する、MaaSという概念だったのです。

人々の移動手段に変化を与えるMaaSの先行事例、「Whim(ウィム)」


こうしてフィンランドで考案され、すでにスイスやイタリアなどの欧州各国で取り組みが広がるMaaS型のサービスは、実際にマイカーへの依存という問題の解消に役立ち始めているようです。

その事例の一つに、2016年にフィンランドのヘルシンキにおいて開始された、「Whim」というサービスが挙げられます。

「Whim」は、一つのアプリでルート検索から予約・決済まで行うことができるMaaS型のサービスで、定額のサブスクリプションプランや都度払いのスタンダードプランを含めて、現在4つのプランで運営がなされています。

代表的なプランである「Whim Urban」は、月額59.7ユーロ(約7,000円)で電車やバス、フェリーなどのフィンランド交通局の公共交通機関が全て乗り放題で、タクシーも5kmまでは10ユーロ(約1,200円)と安価に利用することができるのだそうです。

運営元であるMaaSグローバルの報告によれば、ヘルシンキの人口の約10パーセントに及ぶ6万人以上が登録し、そのうちの10〜20パーセントのユーザーが課金プランで毎月定額を支払っているとされる「Whim」。

ユーザーの交通手段の利用状況における変化も報告されており、アプリ開始前は48パーセントほどだった公共交通機関の利用が、アプリ開始後には74パーセントほどまで増加し、その一方で、40パーセントほどだったマイカーの利用は20パーセントほどまで減少したのだといいます。

MaaSの本質は、街のデザインや他業種に与えるインパクトの大きさにある


マイカー依存からの脱却に加え、サービス上に蓄積される行動データの活用などからも、交通問題を解決する手立てになると期待されるMaaS型のサービス。2050年には人口の7割が都市に暮らすと言われるほど都市化の進む今後、懸念されている交通問題を解決する手段としてますます需要が高まっていくことでしょう。

しかし、MaaSが大きな注目を集める背景にあるのは、都市化がもたらす交通問題を解決するという理由だけではありません。それよりもむしろ、都市のデザインや、既存のビジネスに与えるインパクトの大きさにMaaSの潜在的な価値があると言われているのです。

例えば、すでにオランダにおいては、MaaS時代に備えて駅の大改造が始まっています。ロッテルダム中央駅では地下に巨大な駐輪場を作り、表玄関には駅前広場を作るなどして、人間中心の空間に再編されているのです。

また、今年中には日本にも「Whim」が上陸し、千葉県柏市の一部地域での試験的なサービスの導入が予定されていますが、興味深いのは、提携を組んでいるのが国内の不動産会社だという点でしょう。

モビリティプラットフォーマーと不動産業者が手を結ぶのは、一見すると不思議なように思えるかもしれません。ですが、例えば賃貸に移動手段までパッケージ化し顧客に提案することができれば、既存の不動産業に新しい付加価値を与えることが可能になります。

また、移動の利便性などに重点を置いて街の開発を行えば、不動産価格や地価の上昇なども見込まれるため、不動産業者にとってMaaS型のモビリティプラットフォーマーと手を組むことは、新しいビジネスモデルを構築する契機になっていくと考えられるのです。

インターネットで起きたことが、モビリティの領域でも起こるかもしれない


こうして考えると、もともと交通問題への対処法として考案されたMaaSという概念が、他の産業に対しても新しい商機をもたらす可能性を秘めていると言うことができるかもしれません。

これは、インターネットの世界で起きたことと類似性があると言われることがあります。従来のネットは通信量によって課金され、通信速度も限定的であったことから、利用者は料金などを気にしてストレスを抱えながら利用していました。

しかし、無料のWi-Fiや4Gの普及からネット利用の敷居が下がった現在、そのネット環境を活用して生まれたECなどのサービスやSNS、そして各種エンタメなどのそれぞれの事業規模が、計り知れないほどの規模にまで拡大しているのは誰もが知るところでしょう。

もちろん、インターネットとモビリティを単純に比較することは難しいかもしれません。ですが、どちらも何かを行うための「手段」であるという点では同様ですし、「移動」することは、観光やショッピング、そして外食などの私たちの消費活動に密接に結びついている行動でもあります。

その意味においては、MaaSによって人々の「移動」が以前よりも自由で安価になることによって、先述した不動産業界以外の様々な業種に対しても、付加価値を与える可能性があると考えることができるのではないでしょうか。

拡大し始めているMaaSの波を、移動を便利にするだけの単なるモビリティ革命として捉えるのではなく、その先にある人々の生活の変化やビジネスモデルの転換に焦点を当てることによって、新しい可能性を模索していくことができるのかもしれません。

 
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