【インタビュー】市原えつこさんに聞く「あなたのターニングポイントは」Vol.1


――人には、自分だけの物語がある――

人には数え切れないほどの可能性があります。

夜空に無数にある星の中でひときわ煌めく星のように、自分の可能性を信じ、夢に向かって一歩踏み出し、輝き続けている人の原点やターニングポイントはどのようなものなのでしょうか。

今回は市原えつこさん。彼女の物語とは?

AI時代の、新たな弔いの形

日本特有のカルチャーとテクノロジーをかけ合わせたデバイス、インスタレーション、パフォーマンス作品で注目を集めているメディア・クリエイターの市原えつこさん。創造力の源流と、ユニークなワークシーンに迫ります。

――今年の文化庁メディア学術祭 エンターテインメント部門において、『デジタルシャーマン・プロジェクト』が優秀賞を受賞しました。おめでとうございます。

ありがとうございます。これまでの活動をさまざまな形で支えてくださった皆さまに、改めて感謝申し上げます。

『デジタルシャーマン・プロジェクト』とは、新しい故人の弔い方を提案した作品です。家庭用ロボットに死者の身体的特徴や記憶などの痕跡を移して、遺族と共に死後49日、共生するというもの。開発動機は、大好きだった祖母の死と葬儀が関係していて、仏教葬儀に参列した時に弔いのシステムが非常によく設計できていることに感動したことが始まりです。

以前はなかなか手の届かなかった家庭用ヒト型ロボットが、今では一般家庭にも来る時代になりました。人間は、ヒト型のものに感情移入する傾向があるので、その性質を生かして、故人の魂があの世とこの世を彷徨っている49日を、新しい弔い方法で自分なりに設計できればと思ったんです。

文化庁には、個人のクリエーターを支援する「メディア芸術クリエーター育成支援事業」という制度があるんですが、そこにまずプランを提出したのが2015年、ちょうど祖母を亡くした年でした。予算の問題があったのでアイデアだけを先に固めておいて、正式にプランが受理されてから、本格的な制作に取り掛かりました。作品コンセプトを出したのは私なのですが、複雑なコードも書けませんし、形にするとなると一人で作業を進めるのは難しいので、よくお願いするエンジニアさんのお力も借りました。

――AI時代の新たな弔いの形、とてもユニークな発想ですね。デジタルシャーマンのベースとなっているロボットは「Pepper」ですが、なぜこれを選んだのですか?

実は昨年の春まで、ヤフー株式会社に勤めていました。親会社がソフトバンクだったことと、会社の業務でPepperのアプリ設計に携わっていたのがきっかけです。

出会いは2014年頃だったと記憶していますが、初めて触れた時は「なんだ、こいつは!」と驚きました。筐体費と通信料などを入れると2年間込み込みで200万円ほどかかるんですが、とはいえ、ヒト型のロボットがその値段で買えてしまうのは価格破壊レベルですよね。

ヒト型ロボットは素材としても魅力ですし、全体から漂う雰囲気もなんだかユーモラスで面白かったので使ってみようと思いました。

常にあった「しっかり現実社会と向き合いたい」という強い気持ち

――大根が艶かしく喘ぐデバイス『セクハラ・インターフェース』や、秋田県のナマハゲ行事を現代の東京に移植した『都市のナマハゲ』など、市原さんの作品はアートの文脈を知らない人でも楽しめるので、とても身近に感じています。メディアアーティストという肩書きをお持ちですが、具体的にはどのようなお仕事なのか教えてください。

簡単に言うと、先端テクノロジーを使ったアート表現をする仕事です。

もう少しコアな言い方をしますと、自分たちの身の回りにあるメディア環境は、日々どんどん新しいものが生まれていて、使っているツールも更新されていきます。その、自分たちを取り巻くメディア環境を批評的に捉え直すことをテーマにしたテクノロジー・アートだと私は解釈しています。現在は組織に所属せず、フリーランスとして活動をしています。

――昨年の春までは会社員だったとのことですが、どのような経緯でテクノロジーを使いこなすアーティストになられたのでしょうか?

ほとんど行き当たりばったりだったんです。ただ漠然と、自分の興味があることを探っていった結果で、こうなりました。

まず、テクノロジーと言いつつも、そもそも私は文系出身なんです。ただ、父親が理系で精密機器のパーツなどを扱う商社にいたので、小さい頃からパソコンには慣れ親しんでいる生活でした。それを使って絵を描くのがとにかく大好きで、両親が寝静まった後もコソコソと作業を進めていました。将来は絵描きになりたいと思っていたんです。それこそ、古典的な絵を描くアーティストに。

――では、どうして早稲田大学に進学されたのでしょうか。

美術大学の受験もしたのですが、いざ進学する学校を絞って決める段階になった時にふと疑問が湧いたんです、「美術業界って、どうなんだろう?」と。

なにが引っかかったのかというと、学閥主義というか、癒着体質というか。意外と閉鎖的な業界なのではないかなと思ってしまったんです。大学を出て、画壇に入り、二科展を目指すという流れとか。自由なようで実はちょっと世界が狭いのかなぁ……と気づいたんです。

私は、しっかり生々しい現実社会や産業と関わりたいという意識が強かったので、結局、美大はやめてメディアや社会学について広く学べそうな早稲田大学文化構想学部を進学先としました。

とはいえ、やっぱりモノを作りたいというモチベーションがあったので、なんとか本格的に作る方へ軌道修正できないものかと、大学生活の4年間はあーでもないこーでもないと、ずっとあがいていました。

――自分はなにをしたいのか、どうしたいのかを4年かけて真剣に模索されていたんですね。

自問自答しながら、将来どうすればいいのか糸口が見えず、ひたすら悩んでいました。そんな中で大学2年生の時に、メディア・アートの面白さに触れる機会に恵まれまして。それに触発された形で、実際にモノづくりを始めてみました。

在学中、いくつかの作品コンセプトを生み出したのですが、その代表格が『セクハラ・インターフェース』。

就職活動では、どうにかモノづくりの方に進みたいと思っていたので、いろんな企業を吟味しながら受けました。その中で、なぜかIT業界の雄として知られるヤフー株式会社がデザイナーとして採用してくれたんです。当時の業務内容は、ウェブサービスのUIデザインや、スマートフォンのアプリデザイン等ですね。先ほども触れましたが、Pepperに関する業務も担当していました。

会社員生活を続けるか、フリーランスに転身するか。懸念は経済面。

――会社員生活は、5年。その間もモノづくりは進められていたんですか?

ヤフーは個人活動について理解のある会社で、事前に副業申請さえすればOKでした。もちろん、チームに迷惑をかけたり本業に支障が出たりしない範囲で、ですけど。週に5日、会社員として働き、週末は趣味のアートに時間を費やす、そんな生活を送っていましたね。正直なところ、休日には遊びに行きたい気持ちもありましたけど、アートへの興味がその欲求を上回っていて、実際はほぼ休みなしのストイックすぎる日々を送っていました。

退職を意識したのは、自分の作家としての適性になんとなく気づき始め、一人でもやっていけるんではないかという目処が立ちつつあった入社2〜3年目の頃。少しずつですが、個人宛の仕事依頼が来るようになったんです。

平日は会社の仕事をやって、休日はモノづくりの仕事をする。どっちに手応えがあって反響があるのかを比較した時に、堅気の仕事に対してそんなに適性や伸びしろはなさそうだなと思いました。それから、東京都現代美術館の若手アーティスト向けのコンペに企画を出してみたところ、そこでいきなり準グランプリをいただきました。その時に、もしかしたらこっちの方が向いているのでは?という確実な気づきがあったのです。

しかし、退職するにしても「これから先、一体どうするの?」という現実問題があります。一番の懸念材料はやはり経済面です。どうやって生活していけばいいのか。給与とボーナスいう安定が保証されている会社員を辞めてしまって大丈夫なんだろうか?退職をするまでの2年間はひたすら悶々と考えました。そんな時、背中を押される出来事がありました。

Vol.2では会社員からメディアアーティストへ転身される市原さんに迫ります。市原さんが退職するきっかけとなった出来事とはどのようなことなのでしょうか。

市原 えつこ
メディアアーティスト、妄想インベンター。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。アートの文脈を知らない人も広く楽しめる作品性から、国内の新聞・テレビ・Web媒体、海外雑誌等、多様なメディアに取り上げられている。
主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラ・インターフェース》、虚構の美女と触れ合えるシステム《妄想と現実を代替するシステムSR×SI》、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる《デジタルシャーマン・プロジェクト》等がある。

2016年にYahoo! JAPANを退社し独立、現在フリーランス。クリエーター事務所「QREATOR AGENT」所属。
第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞、総務省異能vation(独創的な人特別枠)採択。
主な展覧会として、「デジタル・シャーマニズム – 日本の弔いと祝祭」(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC])等。

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(聞き手:永原由香子 撮影:竹田靖弘)

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