盛るを科学!シンデレラ・テクノロジー研究家久保友香さんの「ターニングポイント」Vol.1


2014年より、東京大学大学院情報理工学系研究科特員研究員に就任した久保友香さん。現代の女性がなりたい自分になることを叶える技術を「シンデレラ・テクノロジー」と名づけ、日々、その研究を行うと同時に科学でフシギを解き明かしています。「シンデレラ・テクノロジー」を研究しようと思ったターニングポイントはいつだったのか、久保さんのこれまでの生き方を交えながらお聞きします。

久保 友香
1978年、東京都生まれ。都内の私立女子高を卒業後、慶應義塾大学理工学部 システム工業科へ進学。2006年、東京大学大学院新領域創科学研究科博士課過程を修了。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師などを経て、2014年より東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員に就任。専門はメディア環境学。

 

女性の「盛る」が研究対象?シンデレラ・テクノロジーとは

——すでに女性の間で定着している「盛る」、あるいは「盛れている」という言葉がありますが、具体的にはどのようなテクニックなのでしょうか?

自分、または自分たちをよりよく見せるための技術です。派手なメイクやデジタル加工によって本来の自分の顔とは異なる演出をしたりヘアスタイルに手間暇をかけたりして、いつもよりボリュームやインパクトをだしてみたりすることですね。最近では話を大げさに誇張する際にも使われています。「盛る」という言葉が初めて使われたのは2003年11月で、当初は女子高生など若い世代が使う若者用語でした。最近では性別・年齢問わず一般化されつつあります。

——久保さんは、「シンデレラ・テクノロジー」の第一人者ですが、これは要約するとどういった研究なのでしょうか?

現代はファッションやメイクの技術ばかりではなく、プリクラやスマホで撮影したものを手軽に加工できる時代です。「盛る」ことで、魅力的な外見や印象を周囲に与えて多くの人から注目されるという、夢を叶えるための変身、新しいアンデンティティを作り上げる技術全般の研究です。これをシンデレラ・テクノロジーと名付けました。

自分をよく見せる手段として、加工や変身を経て次のステージへあがるというのは、シンデレラの物語と似ていると思ったんです。結果的に王子様を探し出して、モノにするまでがシンデレラなんですが、日本の女の子たちはちょっと違って、理想の王子様と出会うために自分を盛るのではなく、仲間内だったりコミュニティのなかで個性を発揮したりする手段としての「盛る」なんです。私はそこが面白いと感じました。シンデレラの物語とは違うところが多いのですが、これを日本風に姫技術と呼んでも世界に通用しないと思ったので、シンデレラという名前を入れてみたんです。

現代の女の子は、浮世絵の延長線上にある

——「盛る」ことで、理想的な自分を生み出せる時代ですからね。この研究を立ち上げたきっかけはなんだったのでしょうか?

2006年に女性美をモティーフにした美人画の研究をしていました。当時はギャル文化の全盛で、みんなが揃いも揃って強めの化粧をして、見た目がそっくりでした。日本の美人画で描かれている顔は、ご存知の通り写実的ではありません。しかも、普通では描かないようなデフォルメが施されています。時代によって少しずつ美人顔の傾向は異なるものの、浮世絵全般でいえることは、不思議とどれも顔が似通っているということなんです。

顔を化粧で盛って隠すというのは、巫女さんからきていると私は思うんです。不特定多数から見られる立場なのですっぴんではいけない、神様の妻として個性を隠さないといけない。そこが、現代の女の子たちに引き継がれているのではないかと考えたんです。濃い化粧をしたり、プリクラで画像処理をしたりして自分を覆い隠す。まるでデフォルメされた美人画を見ているようで、日本の根強い伝統なのではないかと思いました。

——そういえば少女漫画にもいえることですね。どれも顔立ちが似ています。

そう思います。普通では描かない、でもどこか統一されたデフォルメが確立されているんです。日本の絵画というのは、世界のそれとはまったく違うんです。そういった部分を、数学的に捉えて数値化したらどうなるんだろうという興味も同時に沸いてきました。顔の各パーツにいくつもの特徴点を打って、実際の人の顔と各時代の美人画の基準顔のズレを計測したり、8世紀から現在までの1300年の間で描かれた美人画を幾何学的な特徴で分析したり。

すると、長い時間の流れのなかで、美人顔の条件が少しずつ変化していることがわかりました。そういったことを探っているうちに、現代のそっくりに見える女の子たちの顔は、似通っている浮世絵の延長線上にあるのではないかと思いつき興味を持ったのが最初です。

日本人の美意識を数値化してみた

——数学的に捉えて、という部分が久保さんらしい発想ですね。東京大学で理工学部に在籍していましたが、美人画の研究もされていたとは驚きです。

子どものころから数学が得意でずっと勉強をしていましたが、父の影響で歌舞伎や演歌、任侠映画も大好きでした。日本の美意識や「粋」の精神って素敵ですよね。とても興味がありました。そこで、その好きな二つを混ぜて数学的にモデル化できないかなと考えたんです。相反していますが、やりたくてたまらなくなったんです。

でも、なかなかうまくいきませんでした。大学院の修士論文で書けないものかと試行錯誤したのですが大苦戦。おもてなしの方程式みたいなものを作って発表したり、『粋の構造』という本に数字を当てはめてみたりしたのですが、怪しい答えしかでてこず、とてもじゃないけれど、これでは論文の審査には通らない。本当にいろいろと悩んだ結果、最終的に行き着いたのが日本の絵画でした。浮世絵はデフォルメされていて、写実的に描かれていません。それはなぜなのか?その答えに日本人の思いや「らしさ」があるに違いないと思ったので、そこを数量化することができるのではないかと考えたんです。粋やおもてなしで測ろうとしても、あまりに変数が多すぎるというか、でも絵なら形で表れていますから、得意な幾何学のX-Yでどうにかなるのかなと。

——手応えはありましたか?

はい、デフォルメの特徴を数字で導き出して数式を作りました。そして、それを用いて撮った写真を「日本の絵画らしく変換するソフトを作る」という博士論文を書きました。「粋」までは到達できませんでしたが、日本人の美意識はなんとか数値化することに成功したのかなと。手前味噌ではありますが。

その数値的に分析する手法を応用して次に取り組んだのが美人画でした。先ほども話しましたが、日本の美人画で描かれている顔は写実的ではありませんよね。たとえば、江戸時代の美人画ですと、面長でつり目で寄り目というのがお決まりのパターン。そんな同じような顔はいませんし、絶対に歪めて書いていますよね。

——それが最終的にメイクや「盛り」の文化の研究に繋がっていったのですね。

その通りなのですが、しかし、そこへたどり着くまでにはかなり時間を要しました。技術は未来を作るものなので、歴史のことばかりやっていたらダメだな、もう少し未来に着目しなければと気づいたんです。歴史のなかにはヒントがあるに違いないという気がずっとしていたので、日本の伝統から未来に繋げるなにか、とはナニか? そんなことを悶々と、葛藤する中で博士論文を仕上げ、博士号を取りました。しばらくは東大の駒場キャンパスで助教という立場で働いていたんですけれど、このままだと新たな気づきや発見は得られないと思ったので全部一回やめてしまいました。

納得できる答えと自分の道を見つけたいと思いました。今までの研究を整理しながら、半年ほど家にこもりっきり。考えて悩んでの毎日でした。

>>Vol.2では家にこもりっきりになり、考えて悩んでを繰り返した久保さんに迫ります。久保さんが次に行動したこととはどのようなことなのでしょうか

(聞き手:永原 由香子 撮影:髙橋 明宏)