一国一城の主を夢見て税理士の道を歩む 税理士呉村哲弘さんの「ターニングポイント」Vol.3


一念発起!一心不乱に勉強し、日商簿記1級合格。税理士の道へ!

——税理士になるまで、どう過ごされたんでしょうか。

22歳までの2年間は勉強に集中!23からは税理士事務所で働きながら税理士を目指しました。先程もお伝えしたとおりになりますが、ひとつのことにしか集中できないので、2年は勉強だけだと決めていました。14歳で芸能界に入ってからずっと勉強をしてこなかったわけですから、そもそも「勉強する」癖をつける必要もありましたし、税理士になるだけではなく、独立すると決めていましたから、ダラダラしている余裕も時間もありませんでした。

税理士になるには受験資格が必要です。私には、まず日商簿記一級の取得が必要になりました。合格率は数%~10%台。この6年勉強をしてこなかったので、本当に頭が回るのか心配でたまりませんでしたが、自分にはこれしかないと一心不乱に勉強しました。専門学校に通って、DVDや学校のテキストを繰り返し読んでは頭に叩き込む……ずっとその繰り返しです。

税理士資格は必須科目と選択科目をあわせると11科目あり、簿記論と財務諸表論は必須。その他の科目を含めると計5科目の合格が必要です。どの試験も大変難しく、簡単に突破できるものではありません。計画的に受験する人もいれば、まとめて受験する人もいるかもしれませんが、着実に一科目ずつクリアしていく人もいます。

23歳から税理士事務所にお世話になったのも理由があり、税理士試験に合格しても、税理士登録を完了するためには2年間の実務経験が必要です。試験に合格しても実務経験がないと税理士登録ができないため、一般的には事務所で実務経験を積みながら、勉強をして試験に挑み、税理士資格に合格したらスムーズに税理士登録する人が多いんじゃないかなと思います。


「不甲斐ない息子でごめんな」原動力は母への思い、親孝行

——資格試験中、心が折れそうになることはありませんでしたか?

ずっとテンション高く税理士になるぞ!という気持ちが持続したというわけではありませんでした。気持ちがマイナスに傾いた時には大平光代さんが書いた『だから、あなたも生き抜いて』(講談社 2000/2/21)をよく読んでいました。100万部を超えるベストセラーになった大平さんの自伝です。彼女の自伝を読み、彼女が中卒で色々な経験を経た上で弁護士になったように、自分も税理士になれると必死に勉強しました。

——ゼロからのスタートにもかかわらず、勉強を頑張れた原動力とはなんだったのですか?

独立心もありますが、それ以上に思うのは「親孝行」ですね。親には非常に迷惑をかけましたから。税理士資格を得たから親孝行や恩返しになるというわけではありませんが、ずっと安心させたいと思っていました。

というのも、母には私と同学年の子どもをもつ友達がいます。中学時代の同級生たちはエスカレーターで大学に進学したり、別の有名大学に進学したりもします。中学時代から芸能活動をしている私は同級生たちとは方向性が変わりましたが、母親たちの友人関係はずっと継続しています。月日が流れれば、大学進学や就職の話題になることもあります。母も誰々くんは医大に行ったよ、どこそこに就職したよという話を聞いていたようなんです。

一方、私は高校を卒業せずに芸能の道に進み、20歳で地元に戻り税理士を目指しています。合格しなければ税理士にはなれません。私と同年代の子たちは立派に働くようになる中、自分がこういう状態でしたから、母はきっと辛かったんじゃないかなと思うんです。「不甲斐ない息子で申し訳ない、ごめんな」と心の中でずっと謝っていました。

今振り返ってみても、当時の母がどう思っていたのかは分かりません。今の私のこともどう思っているのか聞いたことがないので分かりませんが、母は私にはずっと何も言わず、今でも優しくずっと見守ってくれています。税理士になってもう10年近くになりますが、ずっと頑張ることが母親に対しても家族に対しても恩返しになると思っています。

変わらない独立への気持ち 一国一城の主へ

税理士資格取得時からずっと使っているという呉村さんの電卓

——税理士事務所に入所しても、独立せずにそこで頑張る選択肢もあったのではないでしょうか。

たしかにそうですね。税理士を目指している人はたくさんいますが、独立を考える人は多くない気がしています。税理士資格は難しい。専門学校時代には税理士を目指す50代から60代の人も大勢いましたし、会社で働いた後に専門学校に通って勉強する人もいました。それほどの試験ですから、20代半ばで税理士になれた私は、もしかしたら運が良かったのかもしれませんし、死に物狂いで勉強をして努力が早く報われたのかもしれません。税理士資格を取得するだけでもチャレンジだと思いますから、その後はやっぱり安定したいという気持ちになるのはわかるような気がするんです。なぜなら、独立しようとすれば資金面やなんといっても最大の問題である顧客確保の問題など、あらゆるリスクがのしかかってきますから……。

そうはいっても、自分の人生。23歳で事務所に入所する時の面接でも所長に対して将来は独立するんだと展望を伝えていましたし、25歳で税理士試験に合格した後もその気持ちはまったく変わりませんでした。

今の税理士業界のことをお話します。昨今、税理士業界はネット環境の急速な進化や激安報酬を売りにする税理士事務所の乱立によって競争が激化しています。あれだけ大変な試験を突破したにもかかわらず、食べていけない開業税理士や、同世代のビジネスパーソンとほぼ変わらない給与の勤務税理士も多数います。そんな中、勝ち残る・勝ち続けるためには他社との差別化が必要不可欠です。「唯一無二」の存在にならないといけないのです。

しかし、税理士業界の人たちはそのような事が不得手な人が非常に多いと感じます。税理士試験に合格することをゴールにしていたり、税務や申告書作成業務などができればそれでよいと考えている人が多すぎると思います。

最近では、「税理士らしくない税理士」と謳って差別化を図ろうとする税理士も増えているように思いますが、結局はどれも差別化が図れていません。特に、最近のお客さまは皆さんが思っている以上に敏感ですし、よくご覧になっています。「本物の税理士かどうか」ということを見極める力が非常に高いです。安易なブランディングでは絶対に通用しません。

そういう意味では私自身、独立前から「誰にも負けないブランディング力がある」と自負しています。常に進化を意識し、「サービス」「接客」「人から喜んでいただくためには」といったことを勉強するための時間を惜しみません。加えて、多くの場所に自ら足を運んで、自分の目で確かめるようにしています。だからこそ、ずっと独立を意識していました。

結局、お世話になっていた事務所はまる2年で退職しました。退職1年前にも所長には相談をしましたし、事務所ではたくさんの経験を積むことができました。ありがたい環境に身をおけました。

——印象に残っていることはありますか。

帳簿の整理でとても怒られたことがやっぱり印象的ですね。会計において、月末締めの1ヵ月の帳簿をつける時、極端なことを言えば10日に使った経費も11日に使った経費も同月処理のため、試算表上は日付が1日異なったとしても大きな影響がない場合がほとんどです。私はある時、タイプミスをしてしまい、日付を1日間違えて入力してしまったんです。その時は副所長に強く指導を受けました。

「いくら同月だからとはいえ、その1日の誤ったせいで、後で何かに影響があったらどうするのか、お客様からの信頼がそこで失われてもいいのか。正確に丁寧にすること、目に見えにくいところまで細やかな配慮をすること。これくらいいいとは思わないこと。お客さまに何かあった時に、正確な記録をしていれば、お客様が守られる」と。それは、一見地味なことのように思えるかもしれませんが、そのとおりだと思い、今の私にも生きている内容です。

——税理士事務所から独立することについて、周りからはどう言われましたか。

大反対されました。100%反対。私が開業した10年前は、「The 税理士」というくらい堅いイメージが残っている時代。26歳やそこらのキャリアもない若造にやれるはずがない、見てくれもこんな感じですから、さすがに心配だと言われました。また、事務所の在籍期間がたった2年でしたから、お金を貯める事もできませんでした。開業資金はゼロ、売上もゼロ。さらには給料もない。でも、独立するんです。

融資を受けても独立するなら早いほうがいい。がむしゃらだった。

–開業資金がない状態で独立されたのですね。

そうですね。今独立するのか、それとも資金を貯めてから独立をするのかを考えた時に、融資を受けた方が自分の今後の税理士人生にとってプラスになるはずだし、独立するなら早いほうがいいと思いましたし、ただもうやるしかないという気持ちでした。26歳にして600万円の融資を受けました。

しかし、実績もなく開業していますから、資本金の600万円は毎月少しずつ、たしかに目に見えるように減っていきます。

生きた心地がせず、眠れない夜が続きました。

>>Vol.4では大阪での開業後の奮闘と、東京進出を果たした呉村さんに迫ります。呉村さんが東京進出にかける思いとはどのようなものだったのでしょうか?

(聞き手:永原 由香子 撮影:髙橋 明宏)

 

呉村哲弘
1982年生まれ。大阪府出身。税理士法人OCパートナーズ代表税理士。東京、大阪の2箇所に事務所を構えている。全国の起業家をサポートしたいという思いから、創業時から起業支援に特化。現在は会社設立専門税理士として東京を中心に活躍している。過去には関西ジャニーズJr、俳優など、多岐に渡る活動を行う。
会社Webページ:http://www.oc-tax.biz/platinum.html
会社紹介:https://www.youtube.com/watch?v=GgZDxlwvzDY