カカオ豆と砂糖だけでつくる「和食っぽい」チョコレート Minimal 山下貴嗣さんの引き算式製造論 Vol.2


日本では珍しいチョコレートのスタートアップ企業を経営する山下貴嗣さん。山下さんはコンサルティング会社を卒業し、チョコレートの世界で大きなご活躍をされています。そのチョコレートは、市場に対して大きなイノベーションを巻き起こす可能性を秘めているかもしれないのです。山下さんがチームの皆さんと作る日本人の繊細さを表現した引き算式のチョコレートとはどのようなものなのかをお聞きしました。

山下貴嗣
1984年岐阜県生まれ。
チョコレートを豆から製造するBean to Bar(ビーントゥバー)との出合いをきっかけに、世の中に新しい価値を提供できる可能性(新しいチョコレート体験の提案や農家を巻き込んだエコシステム創り)を見出し、2014年に渋谷区・富ヶ谷にクラフトチョコレートブランドの「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」を立ち上げる。年間4か月強は、赤道直下のカカオ産地に実際に足を運んで、カカオ農家と交渉し、良質なカカオ豆の買付と農家と協力して毎年の品質改善に取り組む。カカオ豆を活かす独自製法を考案し、設立から3年で、インターナショナルチョコレートアワード世界大会Plain/origin bars部門で日本初の金賞を受賞。2017年にはグッドデザイン賞ベスト100及び特別賞「ものづくり」やWIRED Audi INNOVATION AWARD 2017 30名のイノヴェイターにも選出される。モノを丁寧につくるクラフトマンシップを心から愛する。夢は「世界中の美味しいカカオを食べること」。
HP:http://mini-mal.tokyo/

 

>>コンサルからチョコレート業界へ転換!創業3年で日本人初の世界大会金賞 Minimal山下貴嗣さん Vol.1

日本人の感性を生かした、引き算式のチョコレート

–コンサルティング会社を退職した山下さんが次の人生のステージにチョコレートを選んだのは、お好きだったからですか?

拍子抜けするかも知れませんが、実は特別大好物だったというわけではないんです。Bean To Barの「Bean」とはチョコレートの原材料となるカカオの豆、「Bar」は板チョコのことを言います。豆から板へ……。これは一つの製造スタイルと思っていただくと分かりやすいのですが、カカオ豆を仕入れて板チョコにするまで「一気通貫でやりますよ」という新しいスタイルのチョコレートなのです。たまたま僕の人生の中で、サラリーマンを辞めることにして、次は何をやろうかなと考えた時にチョコレートとの出会いがありました。

面白いなと思ったのが、チョコレートというのはカカオをベースにミルク、バター、香料を足す。つまり足し算で味を作る技術なんですよね。これはソース的な考え方というか、油に油を重ねていく足し算のような感じ。Bean To Barはその逆で、カカオ豆の個性をどれだけ引き出せるかという考え方です。これまでは足し算で作られていたチョコレートを、引き算で素材の良さを引き出し、おいしく味を整え、本来の風味を殺さずに生かすんです。その表現法が「和食っぽいな」と思いました。

–素材の良さを引き出す……和食っぽいというイメージがとても納得できます。

世の中に出回っているチョコレートは、基本的にはどれも非常に甘く、口溶けの良い食べ物という印象があります。しかし、チョコレートの原料はカカオ豆で、それは決しては甘くはありません。むしろ、酸味と苦味と渋みで形成されたカカオ豆は、なぜか食べやすいように過剰な加工が施され、どれも同じような甘い味付けにされています。

カカオ豆は当然農作物ですから産地や畑で味が大きく異なります。コーヒー豆やワインのブドウもそうですよね。単一農家での栽培、国や畑によってブランド分けされたものが主流です。しかし、カカオ豆はなぜか全ての豆が一緒くたにされて加工されています。カカオ豆にも個性があるんです。香料で味を変えなくても、産地や畑で選別すれば豆本来の味を引き出せ、全く違った味わいのチョコレートができるんです。『Minimal』では随時7、8種類の板チョコレートを販売していますが、豆と砂糖のみで作っているのに味はどれも違います。

–欧米などのチョコレートはどれもとても甘く加工されていて、カカオ本来の風味などはほとんど感じることができませんよね。元はいったいどんな味なのか、そういったことにこだわる人はこれまであまりいなかったと思います。

そうですよね。チョコレートの消費量についていえば、欧米が世界の70%を消費しています。そこで日本から新しいチョコレートの製法や技術を発信することができれば、外貨を得ることもできるのではないかと考えたんです。また、食材に関する興味や関心も日本だけではなく世界中で高まっています。余計なものや添加物を加えない、素材本来の味を楽しむ。これはとてもぜいたくで究極な豊かさだといえるのではないでしょうか。私はそこに強い魅力を感じました。

チョコレート市場は今後ますます伸びていくと思います。調べると、チョコレート市場はまるで植民地貿易の縮図のようです。要は、生産国=途上国、消費国=先進国という構図なんです。これには明確な格差がありますよね。今でいうエシカル消費とかフェアトレードの文脈でも、これを是正していくのが世界的なトレンドになっていくだろうとも考えられます。ということは、外貨も取れるだろうし、欧米などの先進国にブランディングもしていけるはずです。しかも、従来の足し算的チョコレートではなく、引き算のチョコレートで日本人的に繊細な表現ができたら、私のやりたいことが全部かなうのではないのかなと思ったのです。

自らこだわって厳選するために農園まで足を運ぶワケ

–チョコレートのグローバルブランドで、これまでの常識を刷新する山下さんの試み。ひょっとすると今後、世界を大きく動かすかもしれませんね。

10年先になるか20年先になるか、あるいは私が生きている間に達成できるかどうかは分かりませんが、チョコレートもワインやコーヒーのように愛好家が誕生したり、強いこだわりが持たれる時代が訪れるはずだとそう願いを込めながら今はひたすら一生懸命、カカオ豆と向き合っているところです。

先ほども話したように、国や産地によってカカオ豆の個性もさまざまなんですよ。カカオ豆は中南米が起源なのですが、私たちはアフリカ、アジア、中南米と農園に足を運び、生産者とできる限り向き合うようにしています。こうすれば豆の酸味を抑えられる、こうすれば本来の甘みが増す、そういった栽培テクニックというのは実はいまだに解明されていません。ですから、私たちも農家も手探りの状態ではあるのですが、例えば発酵過程において放ったらかしにするのではなくて、こまめに豆を割って中を確認してみるのはどうだろう?など、提案しています。まだまだ地道な作業ではあります。

–現地で厳選したカカオ豆を調達し、板にするまで徹底的に管理するBean To Barという製造スタイルは、リスクやコストがかかるのではないですか?

ええ。でも、はじめる時は何も考えていなかったんです。正直に言ってしまうと、みんなが大好きなあのチョコレートがどうやって作られているのか、当初はそれさえも知らず、この世界に飛び込みました。

一次加工メーカーがヨーロッパなどにあります。カカオ豆を大量に仕入れて、一気に効率よく処理してクーベルチュールというチョコレートの生地を作ります。そのクーベルチュールを仕入れてミルクやバター、香料を足していくのがパティシエ、ショコラティエ、お菓子メーカーなんです。もちろん効率良く、無駄なコストをカットするにはそこから仕入れてしまうのが手っ取り早いのですが、私たちが目指している豆の良さや個性を引き出すには原料から自分たちで調達しないと達成できないんです。

–コーヒー農園に足を運ぶバリスタや焙煎士は最近よく聞く話ではありますが、カカオ農園までわざわざ視察に出かけるショコラティエなどは、山下さん以外に存在するのですか?

農園に行くこと自体は簡単なことなんです。私たち以外にも、例えば大手メーカーさんが行くことも珍しくはないと思います。ただ、その先ですよね。私たちは良い農作物を手に入れることで、質の良いチョコレートを製造し、提供することを目的としています。長期的にお気に入りの農園と向き合って、パートナーシップを組むことで、お互いにとって将来的に良い方向へ転がれば、もちろん農家の人にとって安く買い叩かれているカカオ豆が、一手間かけることで倍の値で取引できるかもしれない。そう言ったことを提案したり、または今年よりも素晴らしい豆が採れたら次回はいつもより高く買い取らせてもらうよと約束をします。

現在『Minimal』は本店の富ヶ谷と、銀座、白金高輪、東武池袋に出店していますが、手作業な上に小売業なので大手メーカーさんには何もかもかないません。現地へ赴き、生産者と真摯に向き合うことで交流を深め、こちらの願いや希望を理解してもらう。これまでずっと大量消費されてきたカカオ豆の流通や仕組みなどの根本を変えることは容易ではありませんから。まずは自分たちができることを、コツコツと積み上げて行くことが大切なことだと思っています。

>>まるでプラットフォーム?チョコレートに集まった夢を仲間とともに実現したい Minimal山下貴嗣さん Vol.3

(聞き手:永原 由香子 撮影:髙橋 明宏)

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