独自の視点と理論で植物を栽培 常識は常識ではない?「熱帯植物栽培家」杉山拓巳さん Vol.1


「珍奇植物」と呼ばれる、鮮やかな色や形をした植物たち。
ある特定の品種や種類をさすのではなく「タンクブロメリア」「チランジア」「ディッキア」「コーデックス(塊根植物)」「多肉植物」「シダ」など、自生地も系統もさまざまな植物たちの個性あふれる姿や特性に対する総称としてそう呼ばれています。

これらの植物は有名雑誌で何度も特集が組まれるほどの人気を誇りますが、その大半が熱帯地域の植物でありガーデニング専門店でもあまり取扱いがありません。アパレル関係の人々の間でその特異な姿の価値が高く評価されたことで、東京・渋谷界隈のセレクトショップの店頭では洋服や家具と同等の扱いで販売されるようになり、特に30代~40代の男性に人気が高いといわれています。

それら「珍奇」な熱帯植物の著名な栽培家であり、園芸ファン垂涎の特別な用土、best soil mixを開発したBANKS コレクションのCOOを務める杉山拓巳さんに、植物育成に関する思いやこれまでの経緯などについて伺いました。杉山さんはこれまでの植物の常識を鵜呑みにせずに、独自の論理的なアプローチで純粋に生育を楽しむ傍ら、園芸をもっと豊かにするための商品開発に日々尽力されています。

杉山拓巳
熱帯植物栽培家。BANKS Collection取締役COO。Indoorplants Tom’sを経て独立、創業。2015年TBSマツコの知らない世界、2016年NHKあさイチ「グリーンスタイル」2017年NHK趣味の園芸、NHKあさイチ「グリーンスタイル」などにも出演経験がある。
BANKS コレクション(https://bankscollection.com/)

 

育てる楽しみを味わえるよう、遊び心のある商品開発を目指す

–日本屈指の熱帯植物栽培家でありながら、園芸用品の開発も多くされている杉山さん。一昨年の夏に立ち上げた会社『BANKS コレクション』では、どういった活動をされていますか?

植物というのは生き物なので、正しい育て方の教科書というものがありません。人それぞれ、経験やアプローチの仕方によって形を変えていくものなので、その生育の手助けになるような使い勝手の良い商品開発をモットーとしています。目下奮闘中なのは、肥料とそれに足す栄養剤のようなもの。既存のものとは一線を画す、まったく新しいものを作っている最中なのですが、それは5月に販売になりました。


※上記はb.c aide+、b.c mineral+

いま売られている肥料の多くは、いろんなものがミックスされたものなんですよ。だけど本来、植物に与えるものとしては、もっとシンプルでも僕は良いと思ってる。最近よく言ってるのは、例えばラーメン。麺とスープがあればひとまず成立しますよね。チャーシューやメンマ、ネギといった具材は人ぞれぞれ好みが違うので、あとからアレンジすればいい。つまり、最初から具材を決めつける必要はないんです。植物は生産者が試行錯誤して楽しみながら育てていくものなので、足したり引いたりができる、遊び心のある肥料が作れたらいいなと思っています。

–肥料といっても様々な商品があるので、どれを手にとっていいのか迷ってしまいます。

そうですよね。どれも良い商品ではあるんですけど僕が考える理想的な肥料というのは、あくまでも生育のベースとなる材料。肥料を与えて水をあげてみたら、こんな変化が現れた。だったら次はこれを足してみようという発想をとにかく大事にしたい。その方が、育てる楽しみを味わえますから。

–土なり肥料なり、その影響が目に見えるまで時間を要しませんか?

そうでもないですよ。劇的に一瞬だけ変わればいいんです。そうすればあとは継続していくので。本当に必要なものを得ると、植物というのは一瞬パッと変わる。あれ? なんか今日は違うなと。もちろん、与えたそばからはわかりませんけど、毎日見て毎日しっかり育ててる人ならば、ある日突然その変化に気づけます。その感覚っていうのは、うまく言葉では説明できないんですけどね。

–杉山さんが思い描く、理想的な肥料。開発するにあたり、とても地道で時間のかかる作業ではないのでしょうか?

毎日がトライアンドエラーですけど、ものすごく楽しみながらやってます。そもそも悩んだり、あーでもないこうでもないと実験することが、苦に思わないタイプなので。変化をひたすら待つのではなくてずっとなにかしら考えながら作業をしていますし、いろんな人たちとの会話の中でヒントを得ることもよくあります。点と点が前触れもなく繋がる瞬間というのは、めちゃくちゃ楽しいですよ。そして、そこで閃いたものを具現化できるのか実際に試してみて、でもその結果コストがまったく合わないことが判明、なんてことはしょっちゅうあります。

企画としては流れてしまったのですが、これまでで一番僕がやりたかったのは銅のお皿、鉢の受け皿です。植物は環境などが悪いと病気にかかります。では病気にならないようにするにはどうすればいいのか? そこで行き着いたのが銅のお皿でした。銅は抗菌作用があって、ナメクジのような悪い菌をせっせと運んでくるものを寄せ付けない性質がある。ここまでなら、誰にでも想像できること。僕はそこに1個か2個、誰も想像し得なかったプラス要素を付け足したいんです。例えば虫や菌を寄せ付けず、さらに水が腐らないようにもしたい。銅にもう一つの金属を足すことで実現は可能ではあったんですが、コストがかかるので価格も高くなってしまう。そんな訳で、泣く泣く諦めました。

–園芸ファンの間で大人気の用土『best soil mix』も、商品化に漕ぎ着けるまでトライアンドエラーの連続だったのでしょうか?

そうですね。どんな商品も納得するものが完成するまでは世に出したくはないので、試みと失敗の繰り返しでした。『best soil mix』は、園芸を都会でやる人向けに考案したもので、例えばふるいにかけないでそのまま使えるということであったり、袋の下部にマチをつけ、土がこぼれないように自立するスタンド型にしました。


※左から順番にbest soil mix cutting&seeding、best soil mix、b.c.akadama、b.c.soil mix

肝心の中身、用土ですが、こちらは排水性、保水性、通気性などを考慮しながら、植物の根が元気に育つように設計しました。土というのは植物にとって養分の源であるばかりか、植物を支える役割があります。例えばプランター栽培の場合ですが、使う用土によって野菜の味も変わります。それほど重要なものですから手を抜くわけにはいきませんし、園芸が好きな方々に「これは最高の品だ」と、使ってすぐにわかって頂けるようなものを提供しています。胸を張って言いますが、この土は僕の自信作です。

–強いこだわり故、ご苦労も多いのではないでしょうか?

土を袋詰めする作業にしても、パートさんにお手伝いはしてもらってますが基本ひとりでやってるんですよ。最終的な確認というか、自分の目で確かめながら作業をしたいという気持ちがどうしても強いから、出荷まで余計に時間がかかってしまうというのはあります。すべて自動化してしまえば問題解決と思いきや、難しいんです。土というのは空気を含んでふっくらしてますから容器すれすれに入れても振動を与えることでグッと落ち込むんです。その落ち込んだ部分に、さらに土を足して満タンの状態で出荷したいというこだわりもあるので、こうなってくると機械では難しいですよね。

とはいえ、BANKS Collectionという会社名義で販売しているので、当然商売を意識しながらどんどん売っていかなければいけないという気持ちも、頭の片隅にはあります。土の品質を下げずに、どこまで数を伸ばしていくかは、今後の大きな課題だと思っています。

–園芸をもっと楽しく快適にするために、たくさんの商品開発をされています。『best soil mix』については先ほども少し触れましたが、ほかにはどんなツールをリリースしているのですか?

まず、『best soil mix』についてですが、こちらは大きく分けると大小4種類の土を販売していす。
塊根植物、サボテンなど様々な観葉植物に適した培養土で、現地まで出向いて選び抜いた硬質赤玉土がベースとなっているもの、また挿木用の細かい粒子の土も販売しています。

栽培の目的に応じたスポイト付き活力剤も3種類。それからスイスやアメリカから輸入した液肥混入器や、そのメーカーの既存商品にノズルの部分を改良したもの。これは水に液体肥料をそのまま混ぜながら使えるので便利です。十分使いやすくて僕も気に入ってはいるんですけど、納得感でいうとまだ60%ぐらいの出来で改良の余地まだあり、という感じです。欲張りなのであっちもこっちもどうにかしたいというのがあるんですけど、対コストとの戦いなのでそう簡単にはいきません。

あとは、バイオマスプレート。これは植物を着生させるための専用プレートです。着生は年数をかければ出来るものなんですが、意外と準備に手間と時間がかかるんですよ。以前はコルクや流木など、形が1個1個異なるものにその都度、穴を開けたりしていたのですが非常にやりづらかった。しかも僕の場合、生育する数も多いので尚更。なにか良い方法はないかなと考えてた矢先、たまたまリサイクル材にプラスティックを入れた素材があるという会社の方が訪ねていらして、相談してみたんです。ピュアプラスティックというのは紫外線劣化に弱いのでそのうちザラザラしてくる。ということは、根がつきやすいなと。結果、目論見通りのものが完成しました。6年ほど前の出来事です。

植物は、そのものだけではなく、土なども大事です。僕は熱帯植物の栽培を主にしていますが、こういった周辺のものにも力をいれていきたいと思っています。とにかくアイディアはたくさんありますし、これからもやっていきたいと思っているのです。

>>999回より1回に賭ける トライ・アンド・エラーを楽しむ「熱帯植物栽培家」杉山拓巳さん Vol.2

(聞き手:永原 由香子 撮影:高橋 明宏)