GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん

コーヒーとの出会い、そして世界からみた日本のバリスタとは GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん Vol.4


神田神保町『GLITCH COFFEE&ROASTERS』のオーナー兼バリスタの鈴木清和さん。世界標準のスペシャルティコーヒーが飲めるとあり、国内はもちろん、世界中からその味を求めて多くの人が訪れています。固定概念を覆す一杯は、どのようにして生まれているのか?彼の先鋭的な姿勢に迫ります。

今回はコーヒーとの出会い、そして師事したポール・バセット氏のもとでの経験、そして今後の展望や思いについてお話をお聞きしました。

>>世界標準のコーヒーは「黒くない」「苦くない」。ブームではなくカルチャーを生み出すバリスタ鈴木清和さん Vol.1
>>コーヒーを「徹底的にデータ化」 GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん Vol.2
>>流行り廃りのない、本当に美味しいコーヒーを飲める場所へのこだわり GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん Vol.3

鈴木 清和
「生豆」の選定、焙煎、抽出、サービス、知識。全てにおいてトップであり続けることにこだわり、2015年4月『GLITCH COFFEE & ROASTERS』のオーナーバリスタとして独立。日本人として、日本のコーヒーカルチャーを世界へ発信している。店舗は、『GLITCH COFFEE & ROASTERS』『GLITCH COFFEE BREWED @9h』そして、『COUNTERPART COFFEE GALLAERY』の3店舗。

 

やりたいことを模索するなかで出会う コーヒーの道

GLITCH COFFEE&ROASTERS - グリッチコーヒー&ロースターズ

–鈴木さんももちろん有名なバリスタのお一人でいらっしゃいますが、過去には世界的に有名なバリスタ、ポール・バセット氏に師事していたそうですね。もともとコーヒーがお好きだったのでしょうか。彼に出会うまでどんな道のりがあったのか教えてください。

僕は40になるのですが、専門学校を卒業してしばらくはサラリーマンをしていました。僕自身、これといった夢もなく、ただ生活していくために仕事をただただ生活をしていました。それが4年間ですね。自分のやりたいことってなんだろう?このままでいいのかな?そう自問自答する日が続いていたんです。

気持ちの整理をするために、趣味だったバイクをいじったりガラス工芸、陶芸などもやってみました。その頃はまだ気づいていませんでしたが、元々なにかモノを作ることが好きだったのかもしれません。

そんな中、友達にひとりコーヒーをやっている子がいました。話は聞いていたんですけど、全く興味が湧かなかった。でも、陶芸で作ったカップになにか入れて飲んでみたいなぁと思ったので、もらったコーヒーを自己流で淹れて飲んでみたんです。それが始まりでした。

–自分で作ったカップならば尚更、美味しく感じたのではありませんか?

その通りです(笑)。

GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん

たとえば大切なパートナー、恋人に対してこれがいいな、似合うなと思ってアクセサリーやTシャツをあげたとしても、「ありがとう」とは言ってくれると思います。ただ、残念な現象がその後です。その人の好みじゃないと全く身につけてもらえない、それって悲しいことですよね。だけどコーヒーは味がよくわかっていなくても、「新しいコーヒーをもらったからちょっと淹れてみようかな」というキモチにもなります。心理的障壁がない分、飲んでみようと思えるし、感想も伝えやすい。その返りというか、僕にとってコーヒーというのは美味しかったと感想を言ってもらえるという意味で幸福度が高いのかなという風に思っています。

–サラリーマン生活にピリオドを打ったのは、その一杯のコーヒーがきっかけだったのですね。

はい。そうですね。何がきっかけになるのかはわからないものだなと今となっても思います。

ポール氏のもとでがむしゃらに過ごす日々

–コーヒーをやろうと思い、すぐに行動に至ったのでしょうか。

当時はバリスタという言葉も世に出てきた時期で、その言葉の響き含めてかっこいい職業だなと思いました。服や陶芸品をコーヒーと掛け合わせても面白くなりそうだし、いろんなアイデアがどんどん浮かんできました。とにかく、まずは自分の出来る範囲のことからはじめようと思ったんです。飲食店、喫茶店をはしごして、勉強を始めました。その過程で、25才という若さでワールドバリスタチャンピオンになったポール・バセット氏の存在を知ったのです。

日本のコーヒー業界でもすでに有名な彼でしたが、彼の名前を冠したお店が東京にオープンすること
を知り、迷うことなくアルバイトに応募。二ヶ月後には社員になっていました。

–ここまでマニアックなコーヒー専門家として極めることは、当時想像していましたか?

GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん

いえいえ、まったく。店に飛び込んだ時はカフェラテとカプチーノの違いもろくにわからない状態で、そこへシングルオリジンだ、スペシャルティコーヒーだと未知の言葉が重なって、尋常じゃなく意味がわからない世界でした。コーヒーはどれも同じではないの?なぜポールはそこまで産地にこだわるんだろう?そんなことを一つずつ彼の横で答え合わせをしていくうちに、後戻りできないほどのめり込んでいましたね。こんなに奥深く、素敵な世界があるんだなって。

気づいたら自分はその店を仕切るようになっていました。ただがむしゃらにポールの背中を見て、技を盗み、ハマっていった結果がそれでした。自分でコツコツと貯めた1,500万円で神保神田町にお店を出し、そして赤坂にもこうやって2号店を出すことができました。好きでのめり込むとここまで頑張れるんだと思いますし、やっぱり楽しい。

今こそ当時の仲間とは一緒にはお店も離れてしまいましたが、コーヒー好きの同僚や、真剣に豆と向き合っている仲間たちと交わした情報交換、ディスカッションは現在の生きる糧となっています。

スペシャルティコーヒーが徐々に浸透している実感がある

スペシャルティコーヒー

–スペシャルティコーヒーの素晴らしさを伝えるべく日々尽力されていますが、日本に根付いてきた実感や手応えはありますか?

もちろん、すごく感じています。それどころか、日本のレベルが一番高いのではないかと思っていますよ。そのことに日本人が気づいていないのが悲しいところではあります。世界チャンピオンも排出してますし、国民性もあってか緻密で手仕事を丁寧にやることに長けています。ですからコーヒーの本番であるオーストラリアに行かなくても、日本で素晴らしいコーヒーを飲むことが気軽にできます。

これからさらに日本勢は頭角を現して、世界で一目置かれる日がくるかと思います。実際、舌の肥えてる外国人のお客様が、わざわざうちの店まで足を運んでくれて「クレイジーだ!」と褒めてくれます。今はお隣の台湾もカフェ文化が発達していて、実力をどんどんつけてますよ。去年の世界チャンピオンも出たほどなので、アジア勢の追い上げは驚異となっています。

トップクラスのバリスタになり、若手にも託していきたい これが僕の使命

鈴木清和さんとバリスタ

–それでは鈴木さんのような情熱を持ったバリスタが日本にも多くいるということなんですね。

スペシャルティコーヒーという括りでは、まだ浸透し切れていない部分はあるかと思いますが、優秀なバリスタは大勢いますよ。少なくとも自分の周りはみんな真剣にコーヒーと向き合ってます。我々の業界はライバルではなくて繋がりが大事なので、情報をシェアしながら研究していくことが最も重要なことなんです。僕はその中でもトップクラスの人間になりたいと思っています。気を抜かずにこれからも勉強を続けていきたいです。

GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん

要は、味に納得できるか。レシピを忠実に再現できるかどうかなんです。ウンチクとはまた違うものだと僕は思っていて、たまにこんな人がいませんか?今日は湿気の多い日だから2グラム減らして淹れようとか、気温が高いからどうのこうのとか。僕はそういうのはほとんど信じていません。エアコンを入れればいいだけの話ですから。焙煎も、気温や湿気によって変わるには変わるんですけど、外気を入れ替えたりすればいいだけなんです。それよりも大事なのは、焙煎直後に蓋を開けるのは何秒だとか、どのタイミングで閉じるだとか。一般の方からしたら「なにを言ってるんだこいつは」かと思いますが(笑)。

–自分の天職を見つけてその世界で結果を残していくということは大変なことです。鈴木さんの生き様、姿勢など、今日お聞きしてとても尊敬しました。それでは最後に、今後の展望をお聞かせください。

自分の知識や技術をもっと向上させたいと思っているので、コンスタントに支店を出すということよりも、まずは研究することを念頭に置いておきたいです。やっぱり美味しいコーヒーを提供したいという気持ちが一番ですし、それが本当に大事なことだと思っていますから。

GLITCH COFFEE&ROASTERS 若手バリスタ

その一方で、若いバリスタの育成にも力を注いでいきたいと考えています。僕が学んできたことすべてを、後輩に託したい。僕だって、ずっとバリスタをやりたいと思っていたわけではありません。一杯のコーヒーがきっかけで、これだと思ったから今に至ります。もしかしたら陶芸をしてコーヒーカップを作っていなければ、コーヒーをやっている友人がいなければまた別の人生を歩んでいたかもしれません。何がきっかけで自分の人生が見つかるかなんてわからないと思うんです。

だからこそ、今一緒に働く仲間もそうですが、今後新しくバリスタになりたいと思う子たちにも思いも、ノウハウもすべて伝えていきたいと思っています。

GLITCH COFFEE&ROASTERS 若手バリスタ

僕が淹れた、僕が教えた若い子たちが淹れたコーヒーを通じてコーヒーが好きになった、バリスタになりたいと思ったなどのきっかけになればとても嬉しいことだと思うんです。結果として、コーヒー人口がさらに増えて、もっと身近な嗜好品として愛される飲み物になれば、生産地の人々もきっと喜ぶはず。僕は本気でそう思っているんです。

GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん

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