世界標準のコーヒーは「黒くない」「苦くない」。ブームではなくカルチャーを生み出すバリスタ鈴木清和さん Vol.1


コーヒーショップ、コンビニ、自動販売機など、私たちは毎日多くのコーヒーを飲んでいますが、「黒くて苦い」のが、私たちがイメージする普通のコーヒーです。
その一方で、神田・神保町駅近くの『GLITCH COFFEE & ROASTERS』のオーナー兼バリスタで、10年以上日本のスペシャルティコーヒー業界を牽引してきた鈴木清和さんが提供する「世界標準」のスペシャルティコーヒーは、紅茶を連想させる色と、フルーティーな味わいを感じさせ、これまで私たちが体験してきたものとは全く異なるコーヒーです。彼のこだわりがつまったコーヒーを求めて、国内外から多くのコーヒーファンがひっきりなしに訪れています。

固定概念を覆す一杯はどのようにして実現したのか?鈴木さんの思いとともにお聞きしました。

鈴木 清和
「生豆」の選定、焙煎、抽出、サービス、知識。全てにおいてトップであり続けることにこだわり、2015年4月『GLITCH COFFEE & ROASTERS』のオーナーバリスタとして独立。日本人として、日本のコーヒーカルチャーを世界へ発信している。店舗は、『GLITCH COFFEE & ROASTERS』『GLITCH COFFEE BREWED @9h』そして、『COUNTERPART COFFEE GALLAERY』の3店舗。

 

従来の概念を覆す それがスペシャルティコーヒー

――コーヒーといえば一般的に黒色の液体を連想しますが、スペシャルティコーヒーはまるで紅茶のような色合いで、苦味や渋み、嫌な酸味などがほとんど感じられません。初めて口にする人は驚くのではないでしょうか?

これまでの概念を覆しますよね。馴染みのないフルーティーな味わいで始めての方は戸惑ってしまうかもしれませんが、それが本来のコーヒーの味なんです。なぜ(これまでのコーヒーは)黒い液体なのか?どうして苦いのか?それは焙煎過程でコーヒー豆を焦がしているからなんです。

例えば、国産の高級牛肉があるとします。ほとんどの方は味を楽しむためにレアに仕上げますよね。余計に火を入れてしまったらもったいないですし、肉本来の風味などが損なわれて素材を殺してしまいます。

それと同じで、スペシャルティコーヒーというのは、焙煎の段階で熱を入れすぎたり、焦げ付かないようにしています。レア=浅煎りで仕上げることで、国や産地、畑の個性を100%引き出してあげることができる。この表現方法というのは我々の業界ではすでにスタンダードでして、世界のトップバリスタたちが実践しています。

世界共通の味 僕が目指すコーヒー

――日本では深煎りこそ正義という風潮があるかと思うのですが、そのあたりいかがですか?

流行がありますよね。一昔前は深煎りどころか極深煎りなんていう、苦味が強烈に迫ってくるコーヒーが人気でした。コーヒーが嫌い、苦手という人はその苦味がダメだったのではないでしょうか?焙煎という作業は、それを行う人の個性や好み、クセが出てしまいます。ガツンとくる味わいが好みならば、じっくりローストして苦味を出します。「出す」というより、苦味を加えると言った方が正しいのかもしれませんね。豆を焦がす訳ですから。

しかし、我々が提供しているコーヒーは、世界共通の味を目指してるんです。まず世界標準の濃度があり、しっかり濃度計で管理しています。また味のバランスを見る10項目がありまして、それらを忠実に守るべく、豆の量、抽出時間など計量器を用いてしっかりと計測しています。

味噌汁を例にあげると、おたまに味噌を1杯、お水は目分量でといったアバウトな作り方をみなさんされていると思うんです。だから日によって味にバラつきが出てしまう。一昨日は薄かった、昨日は濃かった、でも今日はちょうど良かった、みたいに。毎日同じ味でベストに仕上げるためには、計量は必須です。もっと厳密にいうと、どの時点で昆布を入れるか、湯が何度まで沸騰したら味噌を入れるか。

――つまり、何から何まで世界共通で定められたレシピがあるという訳ですね。

そうなんです。世界中のコーヒーのスペシャルティ達が定めたレシピがあるんです。そのレシピはプラスして味付けをするのではなくて、あくまでも引き算。余計なものを全部取り払って、豆の個性のみを引き出してあげるためのもの。

最近はCMや広告で「エチオピアの●●農園」など、国や産地表記されてる豆も多く出回ってますけど、実際の味を知っている人は少ないのではないでしょうか。コーヒーチェリーというのは果実です。みなさんが知ってる独特のあの苦味は、焙煎によってプラスされたものなんです。

実際は面白いほど味が異なるんですよ、国、農園ごとに。パッションフルーツ、トマト、カシス、アフターテイストの酸味がグレープフルーツのようだったり。ストロベリーやグレープ、レッドアップルなどもあります。皆さんも飲んでみれば一発で違いがわかるほど、実は個性豊かなんです。そのあたりの浸透度というか情報伝達がまだうまく進んでいないというもどかしさを日々痛感しています。

新境地を開拓したい 手軽にコーヒーが購入できる時代だからこそ。

――フルーティーであること以外にも、何か特徴はありますか?

レシピ通りに淹れたコーヒーは、冷めても美味しいんですよ。1〜2時間経っても古さを感じず、むしろ冷めれば冷めるほど豆本来の個性が際立ってきます。これは浅煎り豆の特徴ともいえます。

今はそれこそコンビニでも手軽にコーヒーが買える時代になりましたし、カフェブームもあってかコーヒー愛飲者人口も右肩上がりです。最近はハンドドリップで淹れたり、産地別に分けた浅煎りコーヒーを提供する店も増えてきました。とはいえ、まだまだ黒い液体=コーヒーという間違った認識のほうが勝っている状態だと思うんです。それが僕にとっては悔しいこと。だから、そういった古い常識を一掃しながら、新境地を開拓して行きたいと考えています。

Vol.2では鈴木さんが究極のコーヒーを目指しコーヒーを淹れるまでの過程やコーヒー豆そのものへのこだわりに迫ります。鈴木さんがどうしてコーヒーを淹れる過程にこだわるのか、そしてコーヒー豆をもとめて現地の人たちとどのような関わり方をしているのでしょうか。

(聞き手:永原 由香子 撮影:髙橋 明宏)