コーヒーを「徹底的にデータ化」 GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん Vol.2


神田・神保町駅近くに位置するロースターも兼ねた有名コーヒー店『GLITCH COFFEE&ROASTERS』では、日本では数少ない世界標準のスペシャルティコーヒーが飲めるとあり、国内外からその味を求めて多くの人が訪れています。

そのオーナー兼バリスタの鈴木清和さんに、固定概念を覆す一杯はどのようにして生みだしているのか、彼の先鋭的な姿勢についてお話をうかがいました。

鈴木さんは自ら海外の生産地に足を運びコーヒー豆の買い付けも行っているそうです。なぜ鈴木さんは工程にこだわり、そしてコーヒー豆にもこだわるのでしょうか。その秘密に迫ります。

世界標準のコーヒーは「黒くない」「苦くない」。ブームではなくカルチャーを生み出すバリスタ鈴木清和さん Vol.1

鈴木 清和
「生豆」の選定、焙煎、抽出、サービス、知識。全てにおいてトップであり続けることにこだわり、2015年4月『GLITCH COFFEE & ROASTERS』のオーナーバリスタとして独立。日本人として、日本のコーヒーカルチャーを世界へ発信している。店舗は、『GLITCH COFFEE & ROASTERS』『GLITCH COFFEE BREWED @9h』そして、『COUNTERPART COFFEE GALLAERY』の3店舗。

 

コーヒー業界は変化の時が訪れている

–スペシャルティコーヒーは豆が持つ本来の味を楽しむべく誕生した至極のコーヒーだということを前回お聞きしましたが、大量消費する時代から価値のあるものを本格的に見直す時期に突入した、という解釈でよろしいですか?

はい。これまでのコーヒー市場は「量」と「価格」に重きを置いて、肝心の「品質」は置き去りにされていました。1982年にアメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA)が専門家集団によって設立されたのですが、その活動が少しずつ広がっていき、2003年にはここ日本にも誕生しました(SCAJ:日本スペシャルティコーヒー協会)。教育と情報交換を通じて素晴らしいコーヒーを育成することを目的とし、見過ごされていた生産者との関わり方や彼らの収入、地位の見直しもされていくようになったんです。

農園としての取り組み方も劇的に変わったと思います。僕は十数年この仕事に就いていますが、わずか15年前と今のコーヒーを比べても全く別物なんですよ。今はカシスやストロベリーのような豆本来が持つ香味も口に含んだだけですぐに分かります。品質に対してその価値に値する対価を支払うということは生産者のモチベーションも上がりますから、ますますの多様性の広がりが期待できるかと思います。

世界標準のコーヒーの秘密は農園の生産者の皆さまのおかげ

–農園の視察や現地買い付けには、よく行かれるんですか?

はい。日本のお米もそうですが、生産地域や生産畑が違うだけで味や風味が変わってきますよね。コーヒーもそれとまったく一緒なんです。抽出技術や焙煎の研究などは生産地との連携も鍵となりますので、現地へ赴くことは当然のことだと捉えています。大袈裟な言い方をしてしまえば、現地に行かない限り、何の情報も得ることはできません。

ブラジルでは農園で直接買い付けすることもできますが、エチオピアではできません。収穫したコーヒーチェリーを洗ったり種を取り出したり、乾燥するための加工場があるので、そこで買い付けにあたります。エチオピアのハンベラというエリアにあるアラカ農園やケニアのマウントケニアの裾野にあるキアンヤンギはとてもいい場所ですよ。

–贔屓にしている農園はありますか?

毎回買うところ、農園はだいたい決まっています。評判がいい良質の豆を生産する農園だと世界中で取り合いになるので、生産者にこちらの情熱が伝わるように目を見て話す必要がありますし、次もあなたのところから買いますねと約束をしておかないと、あっという間になくなってしまうんです。

とはいえ、毎年当たり年とは限りません。気候の影響で大ハズレの年もあるので、そこは一種の賭けだったりします。でも一生懸命作ってくれているのは見ていて分かっているし、彼らと末長く付き合っていくことで、より深い信頼関係も築けます。ですから今年は不出来な豆であっても、約束は約束ですから必ず買い付けはします。

–雨なども、豆の良し悪しに影響するのでしょうか?

ええ、もちろんです。当たり年であっても、収穫期に雨が降ってしまうと最悪なんです。コーヒーの実というものは「摘む」ものなんですが、雨が降ると落ちてしまうんです。また、天候が暑かったり寒すぎたりしてもダメ。摘んだ実は精製所に持っていきそこで天日干ししますが、その過程で激しい気温の変化や雨が降ってしまうと、残念な結果に終わってしまう。


(イメージ)

味に違いが出るという点でもう一つ大切なことがあります。それは手摘みで収穫しているか否か。効率の良さでは機械に勝るものはありませんが、一気にガッと採れてしまうのでどうしても余計なものが混ざってしまうんです。例えば枝や葉っぱ、まだ熟していない青い実など。それらが混ざった状態で加工してしまうと、味が崩れてしまいます。

–完全な手摘み作業ともなれば、かなりの人力が必要となりますね。


(イメージ)

フランチャイズ店だと車で行ける農園だったりしますし、標高も低い。さらには大量に実をつける品種なので全てにおいて効率はいい。ただし、そこには味の保証はありません。フランチャイズ店はロット数が多すぎるので、たとえばケニアのどこどこのエリアのこの農園で育った品種だけをという買い方は物理的にできない。そんなことをしていたら、1店舗で終わってしまいますからね。

僕が訪れた農園で素晴らしいなぁと感動したのは、グアテマラのサンタクララ農園。標高がある上、車も通れない環境です。しかも、どこかに捕まっていないと転がり落ちてしまうほど傾斜のきつい場所で、子供達や赤ちゃんをおぶったお母さんが赤い実だけを丁寧に手摘みしています。もう体じゅう、真っ黒になりながら。それを現地で目の当たりにすると、こちらも期待に応えなければという使命感が湧いてきます。重い麻袋を器用に担いで、傾斜を下ってくる。作業をしてくれている人たちというのは決して裕福ではないので、彼らにいかに還元できるか、それは行くたびに思うことですね。こういった取り組みや考え方も、スペシャルティコーヒーの特徴だと思います。

世界標準のコーヒーに隠される細やかな工程とは?

–コーヒー豆の買い付け頻度を教えていただけますか。

だいたい、年に一度。買い付けた豆は、収穫期から五ヶ月ほど経った頃に、日本へ届きます。それを、一年以内に消費しています。量は豆の種類などにもよりますけれど焙煎は週2回、月に1トンぐらい焼いているので、トータルすると年12トンほどでしょうか。バリスタという仕事は、コーヒーを上手に抽出するプロですが、生豆相手となると、分からないという人が多いんです。ですから、彼らを育てるためのシェアロースターとして教えをしたり、うちの豆を他の店舗に解放しています。

週末は朝9時から焙煎機の前につきっきりで作業を行っています。流れとしては、まず豆を焙煎機に「1,800グラム」入れて回します。1回目の釜は温まっていないので、「3回」ほどテストパッチをします。

–テストパッチということは、そこで焙煎した豆は処分してしまうんですか?

はい。通常ならば捨ててしまうような豆を使っているので、無駄遣いしている訳ではありません。釜が程よく温まったらいよいよ本番なのですが、一回でも手を止めてしまうと釜の温度が変わってしまうので、ずっと焼き続けます。うちはドイツの「PROBAT社」製の焙煎機を導入していますが、これは蓄熱性に優れていて同じ環境で焼ける可能性が高いマシンなんです。

豆が焼けるのは浅煎りなので「約8分半」、そのまま冷やす工程が「約3分」。冷やすにしても、タイマーで測りながら管理をしています。冷まし終えたらグラム数を測るのですが、それはなぜかというと、例えば「1キロ」の豆を投入した場合、熱を加えることで揮発して「900グラム」まで減ります。先ほども話したように、スペシャルティコーヒーは豆の個性を最大限生かしたレシピに基づいた一杯なので、徹底的にデータ化して、パソコンと連動しながら作業を進めるんですよ。

–気の遠くなるような作業ですが、そこまで徹底することで世界各国との味の統一化をしているんですね。非常に革新的だと思います。

僕も最初の頃はちんぷんかんぷんでしたが、最年少でバリスタの世界チャンピオンになったポール・バセット氏に師事してからは、コーヒーに対する気持ちや向き合い方、世界観までもがガラリと変わりました。彼との出会いに感謝すると同時に、この道に進んで本当に良かったと思っています。

>>流行り廃りのない、本当に美味しいコーヒーのこだわり GLITCH COFFEE&ROASTERSオーナー兼バリスタ 鈴木清和さん Vol.3

(聞き手:永原 由香子 撮影:髙橋 明宏)