「珈琲焙煎士」岩野響さん Vol.1 10代の若き焙煎士の一途なこだわり


高校への進学を断念し、洋品店を営む両親の手助けを受けて珈琲焙煎所『HORIZON LABO』を群馬県桐生市で開業した岩野響さん。発達障がいと向き合いながらも、持ち前の優れた味覚と嗅覚、探究心を生かし、通をうならせる逸品を販売しています。彼しか成し得ないであろう技とはどのようなものでしょうか。

自分の「大好き」を一途にまっとうする16歳珈琲焙煎士

–15歳という若さで珈琲焙煎士という道を歩みだした岩野さん。豆が持つ甘みと酸味、苦味を上手に引き出した珈琲は、口コミでどんどん広まって大変な評判になっていますね。

ありがとうございます。とってもうれしいです。珈琲豆というのは非常に繊細なものなので、生かすも殺すも焙煎次第なところがあります。焙煎とはただ焼いて色をつけるのではなくて、絶妙な火入れとタイミングが必要です。どんなに良い高級な豆でも、焙煎でしくじってしまうと全て終わってしまいますから。

だから僕は真剣にこの仕事、研究に取り組んでいます。季節や産地によって豆の性質も異なりますから、「これが正解」というやり方がないのが悩ましいところなのですが、苦労する分、仕上がったものが満足のいくもので、毎日飲みたいと思えた瞬間が一番ホッとします。

–『HORIZON LABO』という店名はどのような思いから命名されたのですか?

中学2年生の時に家族と、タイのプーケット島に行ったんです。その時に島から見た水平線がとてもきれいでした。水平線というのは遠くから見ると波ひとつなくて、穏やかな一本線なんですけれど、近づこうとすると自分の方に向かって波が寄せてきます。その大きくて苦しい波を超えながら、挑戦しながらも、水平線に向かって進んでいきたいんです。そういう気持ちを込めました。

–ここは風の流れもよく、景色も素晴らしいところ。まるで大地の海のようですね。座っているだけで心が落ち着いていきます。

僕もすごく気に入っています。中学1年生までは桐生市役所のそばに住んでいたんですが、2年生の頃にこちらへ越してきました。水道山のちょうど中腹あたりで、見渡しも良好ですし風通しも最高です。自分の珈琲をここで飲みながら季節を肌で感じられる最高の場所です。だから作業もゆったりと落ち着いた気持ちで進めることができます。時にはインスピレーションもわきますよ。

–以前はこちらでも珈琲の販売をされていたそうですが、現在は店舗での営業を終了し、通信販売と委託販売に限っているそうですね。

そうなんです。オープンしたのが昨年の2017年の4月でした。ありがたいことにたくさんのお客さまが買いに来てくださいました。ただ、僕の想像をはるかに超えるほどのお客さまにお越しいただいたことによって、あっという間に商品が品薄となってしまい、珈琲を提供できなくなってしまったんです。

ここは群馬県の桐生です。地元の群馬はもとより北は北海道、南は沖縄、タイや台湾など、海外のお客さまもいらっしゃったんです。交通費をかけてまでわざわざお越しいただいたのに販売することができなくて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

それでどうしようかと考えた結果、店舗販売を止めて、通信販売と委託販売という手段を取ることにしました。少しでもご期待に添えるよう、僕の焙煎した珈琲がお手元に届くようにと思っています。

どうして、珈琲をご提供できなくなったのかといえば、それは僕一人で焙煎作業をしているので、大量生産ができないことによるものです。そのため、今も数量限定で販売しています。インターネットでは「毎日が発見ショッピング」、お店での購入は群馬県内に6店舗、東京ですと渋谷ヒカリエ8階のD&Departmentで購入することができます。僕のホームページを見ていただくと、取り扱い店舗の一覧が載っています。

若い焙煎士の一途なこだわりとは

–岩野さんの焙煎について詳しくお聞きしたいと思います。 こちらにある大きな焙煎機を使って、焙煎されているのですね。

はい。そうなんです。実はこの焙煎機は県内の珈琲屋さんから譲り受けたものなんです。大きいですよね。この焙煎機は自動タイプなのですが、1回につき5キロの豆を焙煎することができます。豆を焼くところから冷却するまでの作業が可能なことが特徴です。一般的にはだいたい15~20分程度焙煎すると言われていますが、僕は深煎りの豆を焼いていることもあり、25~30分かけてゆっくりと焙煎しています。自動とはいうものの、焼く工程は目の離せない重要な作業です。ですから、片時も離れず付きっきりで温度管理、音、香りなどを注視しています。

–焙煎をする上で課題に感じることはありますか。

音や香り、温度調整など……技術的なことを言ってしまうと山ほどの課題があります。例えば、珈琲豆は熱を与えることで色が付くだけではなく、大きさも変化します。焙煎が深くなるほど、少しずつ少しずつ豆がふっくらとしてくるんです。僕は深煎り珈琲を作っていることもあり、豆自体が相当な温度に上昇します。深く焼けば焼くだけ進行も早くなるので、目と鼻と耳を使ってその些細な違いを感じとらなければなりません。そのため、やるたびに本当に気の抜けない作業だと実感しています。

ゴールのない作業といったらちょっとカッコつけすぎなのかもしれませんが、焙煎するたびに新しい発見があり、驚きの連続です。「このタイミングだとこんな音がするのか」「香りが10秒前と違うぞ」とか。珈琲豆と言っても、産地や季節によって何もかもが違うんです。そこが面白いところでもあり、難しい部分でもあります。

それから、とても不思議なことなんですが、怒りや迷いを持ちながら作業をすると、珈琲の味に影響が出てしまうと僕は考えています。「今日はつまんないなぁ」って思いながら焙煎を始めると、つまらない豆ができてしまうんです。勘の鋭い方や珈琲に詳しい方なら、その変化にすぐ気づいてしまうでしょう。僕はそういった豆を販売するのは心苦しいので、常に豆と僕の穏やかな気持ちが一体になるように、そう肝に命じながらいつも作業に取り組んでいます。

–毎月焙煎される量はどのくらいですか。

400キログラムです。各200グラムで合計2,000パックの販売をしています。珈琲豆はお米と同じ農作物。一俵単位から買うことができます。季節、収穫量で値段がその都度変わってしまうので、豆の仕入れ値が高くなってしまえば、それに合わせてどうしても値段を変えなければなりません。それが、お客さまに対して心苦しいところでもあります。

毎月が準備と始まり テーマを持って焙煎した珈琲をお届け

ちなみに、『HORIZON LABO』では毎月、テーマを決めて豆を仕入れ、焙煎しています。例えば3月にはホンジュラスの豆を選びました。3月というのは季節の変わり目で、分厚く着ていたコートや服を脱ぎ捨てるイメージがあります。着るものが変われば気持ちにも変化が訪れますよね。そんなイメージです。また、「準備」や「始まり」といったインスピレーションもわきました。生き生きとした気持ちで、次なるステップを踏むんです。そこに春の到来を告げる花のような優しい香りで包み込みました。同じ深煎り珈琲でも、焙煎の仕方やタイミング、豆の種類で味は全く異なります。

ちなみに2月は、何層にもコクや酸味、甘みが重なった味を作り出しました。寒い時期なので、服を着込んでいるイメージです。その月のテーマに合う豆、これが一番ピッタリだろうなぁというものを熟考して、焙煎し、お客さまに提供できるのがとても嬉しいです。

–一言で深煎り珈琲といっても、焙煎方法でさまざまな風味を生み出すことができるんですね。繊細な作業かと思いますが、毎月、テーマを立ててそれに沿った焙煎をするというのは、常連のお客さんも「今月はどんな味だろう?」と、楽しみにしているんでしょうね。

飲んでみてどんな感想を持たれたか、味の印象などをうかがうのも勉強になるので大好きです。僕はほとんど独学でここまで来たので、お客さまがどんな感想をお持ちなのかをお聞きするのが楽しみなんです!それをお聞きして、新たな自分の研究につなげたいです。

>>僕にできることを一生懸命やる 岩野響さんのターニングポイント Vol.2

岩野響(いわのひびき)
2002年、群馬県生まれ。小学3年生の時にアスペルガー症候群と診断。中学時代は学校生活への適応が難しいと悩んでいた時に、手回し焙煎器をもらったことがきっかけで、珈琲焙煎に熱を上げるようになる。その後、家事や両親が営む染物洋品店の手伝いをしつつ、2017年春に15歳という若さで「HORIZON LABO」を開業。日々焙煎の研究を重ね、気持ちを込めた珈琲を提供。青山の「大坊珈琲店」の店主・大坊勝次氏らとも交流がある。

 

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