美術館でも撮影OKな時代?SNSで古典アートや現代アートがバズる理由


世界を見渡せば作品の撮影可能な美術館や博物館が多くありますが、日本ではこれまで館内の撮影禁止ルールが浸透していました。しかし、近年のSNSの普及によって状況が変化しています。マーケティング効果を狙って撮影を解禁にする美術館や、鑑賞より撮影にフォーカスした展覧会の開催が国内でも増えつつあるのです。芸術家たちの作品を守るべく、直接鑑賞を促す印象が強いアートの世界で、一体何が起こっているのでしょうか?

アートは鑑賞するものから体験するものへ

teamLab★Borderless、Flowers by NAKED、アートアクアリウム。これらのエキシビションに共通することは一体何なのでしょうか。それは、「行列」と「フォトジェニック」です。デジタル技術とアートを融合した、「体験型」作品を数々生み出しているteamLabやNAKED。これらは、今では日本を代表するクリエイティブカンパニーとして、国内外から高い人気を誇り、開催するたびに長い行列待ちの状態が続くほど、人々を魅了してやみません。

なぜなら、彼らのエキシビションでは、観客も作品の一部となっているからです。光や音に包まれた体験をすることができるため、その様子を写真や動画に収めることができます。「アート=高尚な趣味」とされたアートの世界が、「アート=映え」という新しい体験へ扉を開けたのは、彼らの登場が大きな役割を果たしているのでしょう。

このようなアート展は世界中で続々と開催されています。2016年アメリカで開催された「MUSEUM OF ICE CREAM展」では、アイスクリームやドーナツといった女子ウケ&インスタ映えするPOPなインスタレーション展示が並ぶ中で撮影フリーだったこともあり、インスタグラムにアート展の様子を写した多くの写真がアップされ、心を惹かれた人がシェアを行い、その人気を受けた日本でも同様のアート展が開催されました。その後も、teamLabやNAKEDはもちろん、老舗美術館でも、SNS投稿を意識した展覧会を企画する等、新しい取り組みが急増しています。

古典アートは現代で再評価される

また、過去の伝統的な作品がSNSを介して再評価される場面も増えています。札幌芸術の森美術館で行われた「ブリューゲル展」では、平日全作品の写真撮影が解禁されました。また、森美術館(東京)でも「レアンドロ・エルリッヒ展」において、彼の作品の中に入ったようなトリックアート写真が撮れるコーナーが設けられたのです。

また、伝統的絵画とAI(人工知能)のイノベーションも起きています。2017年には、16世紀にウィーンのハプスブルク家の宮廷画家として活躍したアルチンボンドの展覧会が上野にある国立西洋美術館で開催。彼は野菜や果物、動物を組み合わせた肖像画を描くことで有名ですが、この作品展では「アルチンボルドメーカー」という最新デジタル技術による記念撮影コーナーを設置。その仕掛はセンサーによって識別された人の顔に果物や野菜を重ねて、その人の肖像画を作り上げるというものです。

その肖像画を周囲に共有するために、SNSでアルチンボルドの「夏」風の肖像画がたくさんシェアされていました。顔のパーツや髪型といった特徴をとらえて果物や野菜で作り上げられた自分の画像を見て、自分に似ていると思う人もいれば似ていないと感じる人など、感想はさまざまですが、16世紀の作品とは思えない作風がイノベーションの力を借りて多くの人にその魅力が広まったと言えます。

このことから、古典・現代ともにアート作品と観客との距離感がぐっと近くなっていることが分かります。美術館側も「見ること」より「写真を撮ること」を目的とした人々を意識した企画・運営にシフトチェンジしていると考えることができるでしょう。

アートの発信場 今はSNS

観客がSNSを介してアートとの距離を縮めている一方で、作品を創るアーティストにも変化が見えています。日本の神獣たちを独自のタッチで描く小松美羽さんは、日本の「大和力」を世界に伝えるべく、SNSやYouTubeなどのデジタル媒体を積極的に活用している新進気鋭の現代アーティスト(銅板画家)の一人です。

国内外での人気の高い現代アーティストである彼女のインスタグラムでも作品やペイントの様子が映し出されています。また、インスタグラムでは1つの作品が6ないし9個の画像で表現されています。また、精力的に無料のライブペインティングイベントを行っており、大きなキャンパスや壁面にダイナミックに描く姿を間近に見ることができます。

作品がゼロから創作される様子がYouTubeでたくさん投稿され、その迫力を間近で感じることができるので、アートとの距離感が縮まるとともに、彼女の魅力にも触れられます。

こうした動きは日本美術家だけにとどまりません。世界の先住民の写真を撮り続けるフォトグラファーのヨシダナギさんは、テレビや雑誌、Webメディアなどで自分の仕事を話題にする他、SNSを介した作品のプロモーションや、展示会を多数行い、ファンとの交流を欠かしません。彼女の展示会では撮影が可能で、SNS上で作品が拡散される様子が見られます。

彼女たちはだけではなく現代アーティストの多くが、SNSやYouTubeと自身のHPを活用した表現活動に精力的に取り組んでいます。そして、それがそのまま彼女たちの作品や彼女たち自身の認知度向上にも繋がるのです。現代のSNSマーケティングやSNSセルフブランディングの成功事例と言えるでしょう。

自己表現の方法はますます多様化していく

2018年10月現在「#artofinstagram」で約290万件、「#artistsoninstagram」で約1,765万件のアート作品発表の投稿が行われています。作品レベルはさまざまですが、SNSが表現の場として大きな役割を果たしていることは明らかで、インターネットによってアーティストや作品と観客との距離がより近くなっています。それぞれがSNSやネットを通じて自己表現ができるようになり、これまでアーティストから一方通行だった流れが双方向になったのです。

また、他のアーティスト、他の観客、他のアート作品とつながる「スパイダー型」へと表現の場は変容しています。この変化はアートの世界のみならず、すべてのジャンルの人に当てはまり、新たなビジネスチャンスを創出しています。

インターネットは、新たな自己表現の方法と人やモノとのつながり方を教えてくれています。これまで知らなかった新たな世界へのアクセスも容易になり、多くの人が気軽に未知の自分と知り合える機会が増えていくでしょう。また、表現の多様化が進むとともに、多様性への寛容な心が育っていくはずです。

Photo by Debby Hudson on Unsplash