ピーター・ティールに見る新しい生き方のヒント


「空飛ぶクルマがほしかったのに、手にしたのは140文字だ」。伝説の起業家ピーター・ティールはこう述べて、革新的なテクノロジーが生まれない現状を嘆きました。140文字というのはツイッターを揶揄したものですが、ティールの目には、SNSが未来への広がりがないものに映ったのでしょう。

人間の進歩に必要なのは、いまあるものをコピーし、世界的に広がっていく「『1→N』の水平的進歩」ではなく、テクノロジーの力で新しい何かを生み出す「『0→1(ゼロ・トゥ・ワン)』の垂直的進歩」だと、ティールは著書「ゼロ・トゥ・ワン」で説いています。同書をもとに、新しい生き方のヒントを探っていきましょう。

ピーター・ティールの華麗なる実績

ドイツに生まれたピーター・ティールは、1歳でアメリカに移住しました。周囲の誰もが認める神童だったティールはスタンフォード大学に飛び級入学し、哲学を学びました。卒業後はスタンフォード・ロー・スクールに入学し、法学博士を取得します。ロースクールの学生なら誰でも憧れるキャリアの頂点、最高裁の法務事務官を目指し、日々激しい競争に身を投じていたのです。

やがてティールは連邦控訴裁判所の法務事務次官となり、最高裁の法務事務官の面接に臨みます。しかし、面接で失敗し、法曹界の頂点に立つことはできませんでした。ティールは自著では触れていませんが、彼はその後法律事務所、金融機関に勤務し、周囲から冷遇されたと言われています。

しかし、この挫折が大きな転機になりました。1998年に共同創業したPayPalを、2002年にeBayに約15億ドルで売却し、莫大な財産を手にしました。ティールをはじめとしたPayPalの初期メンバーは、後にシリコンバレーで次々と有名企業を立ち上げ、ペイパル・マフィアと呼ばれるほどの影響力を持つようになります。

ティールは売却後にファンドを立ち上げ、スタートアップへの投資を始めました。彼が立ち上げたプロジェクトの中で、最もセンセーショナルだったものは「ティール・フェローシップ」です。これは、20歳以下の若者に、通っている学校をやめるもらう条件で、1人当たり10万ドルを投資し、一定期間研究や創業に没頭させるというものです。特異な才能を持つ者が、学校で埋没しているという考えからこのプロジェクトが生まれたとされています。

競争は負け犬のすることだ

ティールは同書で、「独占」こそがイノベーションの源泉であると繰り返し指摘しました。こう指摘するに至ったのはティールの過去の挫折が大きく影響しています。転職の失敗と起業の成功が、競争することは不毛だとティールに思わせたのでしょう。

ティールの「競争の否定」は、現代の経営概念を大きく覆すものです。マイケル・ポーターが1985年に出版した「競争の原理」で初めて経営戦略に「競争」の概念を持ち込み、競争こそが企業の成長の源泉であると説きました。以来、企業は競合他者をいかに攻撃、もしくは他者からの攻撃から守るかを意識し、競争優位を確保するように努めてきました

しかしティールはこうした競争が商品に差が付かなくなるコモディティ化を生み、価格減少で誰もが生き残りに苦しむことになると指摘します。一方で独占的企業であれば、利益率が高くなり、思い切った研究開発に資金を投入する余裕が生まれると説きました。独占することが、革新的なテクノロジーを生み続ける土壌を作るというのです。

大きな市場に参入するなかれ

では市場を独占するにはどうしたらいいのでしょうか。ティールは小さな市場を選択することが必要だと述べています。アマゾンが書籍のオンライン小売市場を始め、やがて世界一のデパートになったように、小さな市場をまず支配して、徐々に大きくしていくことが大切としています。

アマゾンが最初の市場を支配できたのは、在庫になると敬遠されがちな稀少本をターゲットとしたことが大きな要因です。その後CDやビデオなど、書籍に関連性のある市場から徐々に拡大していきました。今ではクラウド事業を創出し、マイクロソフトやIBMなど、伝統的なIT企業の参入をもろともせず、大きなシェアを占め、「クラウドファースト」というトレンドを創出しました。

隠された真実を見つけよ

肝心の支配するべき市場の見つけ方について、ティールは「隠された真実を見つけること」指摘しています。これは同書のテーマともなっており、同書では「賛成する人がほとんどいない大切な真実は何か」という問いかけが繰り返し出てきます。

この隠された真実こそが、「ゼロ・トゥ・ワン」へのアクションに導く大切な要素なのです。小さな成功で満足するのではなく、長期的なビジョン・計画を策定して持続的な成長をすることも大事で、試行錯誤を繰り返しながら少しずつ成長していく「リーン・スタートアップ」の概念を厳しく批判しています。

読者をひきつける内容の濃さ

同書は、ティールがさまざまな企業の豊富な事例をもとに社会的背景や経済状況を踏まえて分析し、理知的に、情熱あふれる語り口で進行しています。時には古典文学や哲学書の一節を引用しているのも特徴です。起業を目指す方はもちろん、あらゆる分野で活躍するプロフェッショナルにとって、これからの指針となる良書だと言えるでしょう。

 

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