ベッドに入る時刻を意識するだけで、生活習慣に変革がもたらされるかもしれない


OECDの統計(Gender Data Portal 2019)によると、15歳から64歳の日本人の睡眠時間の平均は442分と世界でも最低水準であり、睡眠不足の問題はますます他人事ではなくなってきました。

忙しい生活のなかでは、時間が足りないと感じた時に別のどこかの時間を削る必要がありますが、そんな時に睡眠時間は簡単に削ることができるため、ターゲットになりやすいのかもしれません。

しかし、科学誌『サイエンス』に発表された研究の中には、睡眠不足の人が毎日もう1時間眠るようになると、収入が600万円増えた時よりも幸せを感じるとの試算もあるのだそうです。

徹夜や残業などで睡眠時間を削っているという声をよく耳にしますが、仕事で600万円分の収入を増やすことよりも、1時間多く睡眠時間を確保することの方が容易なはずです。

その意味においては、自らの睡眠習慣と改めて向き合うことは、豊かな人生を送るための一歩としては最適なものなのかもしれません。

睡眠不足の特徴は、パフォーマンスの低下に気がつきにくいこと


そもそも、多くの人々が睡眠時間をないがしろにしてしまう背景には、睡眠不足でパフォーマンスが低下していても、本人はそのことに気が付きにくいという理由が関係しています。

多少の眠気やだるさは我慢することができるため、4、5時間程度の睡眠時間でも1日を乗り切れる人は多いかもしれませんが、睡眠不足が続いて能力の低下した状態が慢性化すると、その状態でいることに慣れていきます。

そして、その状態に慣れると、反応が鈍かったりエネルギー不足の状態が自分の普通の状態であると認識してしまうため、睡眠不足で健康が蝕まれていても、それに気がつきにくくなってしまうのです。

それでも、睡眠不足を図る指標としては、起きてから4時間以内に眠気が来るかどうかが一つの目安となるそうで、カフェインなどに頼らないと眠気が治らない場合は、睡眠が不足していると考えられます。

また、無意識にペンや指で机をコツコツ叩いたり、飴を噛んでしまうことも睡眠不足の一つのサインなのだそうです。

噛んだり叩いたりする運動は、1秒の間に2〜3回ほどのペースで繰り返されるリズム運動であり、体がそのようなリズムのある運動をすると、脳にはセロトニンという幸福ホルモンが分泌されます。

睡眠が足りないと意識の覚醒レベルが下がり、感情も不安定になったりするため、脳が体に向けてリズム運動を命令してセロトニンを分泌させようとするのです。

これらの兆候が見られる場合は、本人が自覚していないとしても、睡眠不足によってパフォーマンスが低下している可能性があるかもしれません。

一流のバイオリニストは、1日に20分以上の昼寝をとっていた


睡眠不足に対処するための一つの手段としては、仮眠が有効であると複数の研究によって示されています。

また、これまでは一般的に、午後の眠気には昼食が関係していると考えられていました。しかし最近の研究によれば、人類の持っている半日周期の体内時計も午後の眠気に影響していることが明らかになっているようです。

つまり、私たちは生物学的に、午後になると眠くなるという性質を備えているのです。

事実、東南アジアや中国、そして中南米地域などの広い地域で昼寝をする文化があり、かつては西日本の農村部などでも、暑い季節には木陰に入って昼寝をとる習慣があったのだと言われています。

興味深い研究としては、心理学者のK・アンダース・エリクソンが行った調査があります。この調査では、一流のバイオリニストに共通しているのは、練習量の多さと昼寝を含めた睡眠時間の長さだということが明らかになりました。

平均すると1日に8.6時間の睡眠と20分以上の昼寝を取っていたのだそうで、一流パフォーマーの並外れた集中力は、昼寝なども含めた休息によって支えられていたのだと結論づけられています。

アラームは危険「起きる時刻ではなく、ベットに入る時刻を決めなければいけない」


昼寝をしても頭が冴えなかったり、慢性的に睡眠不足が続いているのであれば、睡眠習慣そのものを見直す必要があるでしょう。

睡眠時間が足りていないと、生産性が落ちて労働時間が増すため、残業などが増えてしまいます。しかし、帰宅する時間が遅くなっても起きる時間は毎日変わらないため、睡眠時間がさらに少なくなるという悪循環に陥ってしまうのです。

また、決まった時間に起きるために目覚まし時計を利用している人も多いかもしれませんが、眠いのに無理やり起きる習慣があるのは人間くらいで、この習慣は自然なものではないように思えます。

実際、「労働安全衛生総合研究所」によって行われた研究によると、大きなアラーム音で起こされることは心臓に悪く、血圧とストレスレベルを上昇させることが分かっているのだそうです。スヌーズ機能はさらに危険で、短時間で何度もアラームを鳴らしていては、繰り返し心臓にダメージを与えることになってしまいます。

これを防ぐためには、朝起きる時間を決めるのではなく、適度な睡眠時間を確保できる時刻を逆算するなどして、ベッドに入る時間の方に焦点を当てていく必要があるのではないでしょうか。

例えば、イチロー選手も、ホテルに帰ってベッドに入る時間を徹底して管理していたと知られています。アメリカ西海岸と東海岸では3時間もの時差があるため、自分がいる場所の時間は当てにならず、翌日の試合開始時間を基にして、休息をとる時間を緻密に逆算していたのだそうです。

そもそも睡眠時間は、その日に溜まった疲れを回復する時間でありつつ、翌日のパフォーマンスを高めるための準備の時間でもあります。

その意味では、ベッドに入る時刻を1日の終わりではなく、次の1日のスタートとして捉えることが、睡眠とうまく付き合っていくために有効なマインドセットなのでしょう。

こうした「捉え方を変える」という考え方は睡眠以外にも応用することができるため、その他の生活習慣に関しても焦点を当てるポイントを変えることによって、新しい可能性を広げていくことができるのかもしれません。

 
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