中小企業経営者の高齢化による事業継承問題が深刻化する日本で「事業承継サービス」が注目されています。
「廃業によって、GDP(国内総生産)が約22兆円相当縮小する」と懸念されている現状打破の解決策として、中小企業が事業承継サービスを利用するメリットや注意点をご紹介しましょう。
地方で広がる後継者率格差 60歳以上の経営者の過半数が廃業予定
帝王データバンクが全国の企業約27万5,000社、13以上の産業の継承者動向を分析した報告書によると、2019年の全国的な後継者不在率は65.2%(約18万社)でした。
しかし後継者不在率は地域によって格差がみられ、北陸地方と四国地方は60%未満であるのに対し、北海道と中国地方は70%を超えています。
また、経営者の高齢化による影響も深刻化しています。日本政策金融公庫の報告によると、事業の黒字・赤字に関わらず、60歳以上の経営者の過半数が将来的な廃業を予定しており、そのうち約3割が後継者難を理由に挙げています。
後継者問題が解決しない限り、2025年頃までに最大約650万人が職を失い、GDP(国内総生産)が約22兆円相当縮小することが予想されています。
後継者の選択については親族承継が年々減少傾向にあるのに対し、幹部役員などが就任する「内部昇格」や経験豊富な社外の第三者が就任する「外部招聘」が増加傾向にあります。
事業継承サービスの種類
事業継承サービスはこうした問題の解決策として、地域経済を支える中小企業が次の世代、またその次の世代へと事業を引き継ぐ基盤作りをサポートするものです。
日本では顧問税理士・公認会計士や親族・友人に相談するという経営者が多く、事業引継ぎ支援センターなどの利用率は低いようです。一方、海外ではビジネスの規模に関わらず事業継承サービスの利用が定着しています。
親族承継や親族外承継、M&A(Mergers and Acquisitions)など多くの事業継承手段がありますが、いずれも複雑な手続きや念入りな準備が欠かせず専門知識も必要です。
専門の事業継承サービスを利用すると、継承のプロセス開始準備から完了後のアフターケアまで、経験豊富な専門家に安心して任せることができます。
提供しているサービスの詳細はサービス会社によって異なりますが、その多くが事業継承プロセスを円滑に行ううえで必要となる以下のような総合サポートを提供しています。
・事業継承計画の提案・作成
・継承者あるいは候補者の育成・選定
・株式の贈与・譲渡
・税金・資金対策
・組織再編
・財産の承継、信託・遺言書の作成
オープン・プラットフォーム型のサービスが人気上昇中
近年、後継者探しに対して閉鎖的な文化背景をもつ日本において、よりオープンな環境で継業を身近なものへと転換させる動きが活発化しています。
「Tranbi」や「Batonz」など、後継者を探している事業主と後継者になりたい次の事業主候補をマッチングする、オープン・プラットフォームの人気が高まっています。また、単に事業内容や規模を掲載するのではなく、現経営者の人柄や運営に対する想いを伝えることに重点を置く、「relay(リレイ)」のようなユニークなサービスも登場しています。
財務・会計コンサル企業の事業承継後継者サービスを利用するメリットは、ビジネスコンサルティング・サービスの一環として事業継承サービスを提供しているコンサルが多いため、他のサービスと併用可能な点です。
後継者は早期決定・早期引継ぎが吉と出る?
しかし単に「事業継承サービスを利用すれば、スムーズに後継者が見つかる」ということではありません。事業継承プロセスは非常に時間を要するものであり、一から候補者から探す、あるいは育成するとなると時期が遅くなるほど中途半端な引継ぎになってしまったり、廃業のリスクが高まったりする恐れがあります。
また、後継者探しや引継ぎなどのタイミングも非常に重要です。世代を超えて成長し続ける事業を残すためには「適切な後継者に適切な形で後を託す」必要があります。
東京商工会議所が2017年に、東京23区の事業者1,892人を対象に実施したアンケートによると、すでに後継者を決めている企業の50%が3年未満に承継の完了を予定しているのに対し、候補者を決めているだけの企業の59%は3年以上5年未満を予定しています。
また30~40代前半以前で事業を引き継いだ経営者は、承継後に業績が好転した割合が高いことも明らかになっています。事業承継の理想的な年代は、向上心旺盛である程度知識や経験を積んだ30~40代で、そのうち57%の経営者が業績を好転したと回答し、悪化した経営者は10%にとどまります。20代は経験が浅いためか、好転の割合は46%であるものの、悪化の割合も年代中最も高く23%となっています。
「承継したいが方法が分からない」経営者もいる
「事業は継続したいが、後継者を決めていない」という経営者の中には、後継者探しの方法や相談先が分からず月日だけが過ぎてしまっている人もいます。
後継者や候補者が決まっている経営者だけではなく、「どこから手をつけていいのか分からない」という経営者も、事業承継後継者サービスの利用を検討することで後継者問題を解決する糸口が見え、長きにわたり成長し続ける事業を未来の世代に託せるのではないでしょうか。
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