「時間を買う」という企業の戦略は、個人も応用できる


2000年時には国内で1500件ほどだった企業買収(M&A)は徐々に増加し、2018年には2倍以上の3800件ほどまで増えました。

買収することによって、事業を始める際に必要となる時間を短縮できることから、M&Aは「時間を買う戦略」だと言われていますが、経営再建や事業継承、そして新規事業参入という目的を達成するために、多くの企業がそのような戦略を行うようになってきているのです。

また、取引件数だけではなく、ソフトバンクによるスプリント・ネクステル買収(1兆8000億円)や、サントリーによるビームの買収(1兆6500億円)など、1兆円を超える大型のM&Aも珍しくなくなりました。

テクノロジーやグローバル化の影響が限定的で、世の中が比較的安定していた時代には、ゆっくり時間をかけて事業を成長させることができたため、時間を買うという戦略の優位性も高くはありませんでした。

しかし、新しいテクノロジーが次々と台頭し、市場の変化の速度が早まっている現在、企業において時間の価値が相対的に高まってきているのかもしれません。

時間を買って先行投資するべきなのは、個人も同じ


変化の速い社会の中にいるのは、企業だけではなく個人でも同様であるため、時間を買うという戦略は個人においても応用することができると考えられます。

例えば、企業が時間を買う戦略であるM&Aを行うのは、大きな利益を上げるための先行投資と捉えることができますが、個人においても、時間にコストを払って自分自身に先行投資をするという意識を持つことで、時代の変化に対応していくことができるのではないでしょうか。

事実、近年すでに、分単位で自分の時間を売り買いするアプリや、家事代行などのアウトソースサービスが普及し、「時間を買う」という選択に対するハードルも下がりつつあります。

一般的に、これまでのビジネスの場では、自分の時間を売ることへの対価として金銭を得るサラリーマンと、お金で労働者の時間を買う資本家という二つの立場に分かれていました。

ですが、今後はそれぞれの個人においても「時間を買う」という視点の重要性が徐々に高まっていくのかもしれません。

セミナーへの参加からタクシーまで、多岐に及ぶ時間を買う手段


時間をお金で買うという戦略を個人において応用すると、分かりやすい例としては、セミナーや講座への参加、書籍の購入などがこれに当たるでしょう。

それらを通して得ることができる知識やノウハウは、自分以外の誰かが10年、20年と時間をかけて学び得てきた集合知であり、その時間への対価としてお金を支払うことによって短い時間でそれらを身につけてスキルアップすることができるのです。

また、移動にタクシーを利用することなども、お金で時間を買うという事例の一つでしょう。

タクシーを利用すれば移動時間を短縮して、空いた時間を自由に使うことができますし、タクシーは車内空間も快適なため、そこで生産的な活動に取り組むことのできる時間をタクシー代という形で買っているということになるのです。

その他にも、時間を大切にする人は、家事をアウトソーシングしたり、食事を外食などで済ませたりなど、お金を払って重要性の低い時間を短縮することで自分自身の時間を守ろうとします。

それは、自分にとって大切なことに当てる時間を最大化することが、結果的な生涯リターンに大きな違いをもたらすことを理解しているからなのかもしれません。

利子を支払うことも、時間を買う手段の一つ


私たちの身近なところでは、実は、利子も時間を買うための一つの手段として考えることができます。

例えば、30万円するパソコンを一年間貯金してから購入するか、カードで今すぐ決済するか迷った場合、もしもカード払いの方は利子でプラス3万円ほどかかるとしたら、結果的に支払う総額は33万円ほどになるため、金額的には現金の方が安く買えるのかもしれません。

しかし、カードで支払えば、今日からそのパソコンを利用してスキルを磨いていくことができます。この場合、支払う利子である3万円は、本来であれば貯金のために必要だった時間に対する対価であり、3万円を払って「1年間前倒しでパソコンが利用できる権利」を買っていると考えることができるのです。

よく、現金で家を買うことができるくらいの富裕層が、あえてローンを組んで家を購入するという話を耳にすることがありますが、これも、彼らが利子の持つ意味合いを熟知しており、ローンを組むことが時間を買う手段の一つであるという認識を持っているからなのでしょう。

現金で支払うと手元からキャッシュがなくなってしまいますが、ローンを組めば、それらのキャッシュを手元に留めておくことができます。そして彼らは、株式や不動産などの別の事柄に対してキャッシュを運用することができるのです。

その意味において、利子は、支払いまでの時間を伸ばすための対価としての役割を持ち、富裕層は利子を払うことによって、手元のキャッシュを運用するための時間・機会を買っていると捉えることができるのです。

時間を買うという戦略を、目標を叶えるための一つの選択肢に


時間が足りない時よりも、お金が足りない時の方が私たちは不安になりやすいため、時間を買うという選択に対して躊躇を感じることもあるかもしれません。

それに加え、カードを利用したり外部から融資を受けたりすることには一定のリスクも付随するため、明確な目的や目標もないままお金で時間を買おうとすると、お金と時間の両方をムダにしてしまう可能性もあることでしょう。

それでも、企業が新規事業参入などの目的を見据えてM&Aを行うように、個人でも何か目的や目標を持った上で「時間を買う」という選択を取るのであれば、それを叶えるための効果的な手段の一つになると考えられます。

もちろん、時間を買うか買わないかを的確に判断し、時には時間をかけてコツコツと夢に向かって進むことも大切ですが、チャンスや可能性を感じた時には思い切って、時間を買うという選択に一歩踏み出してみるのも悪くないのではないでしょうか。

成否を分けるポイントとなる時間との付き合い方において、時間を買うという視点を持つことが、時間に対する意識を変え、成功への道を切り開くきっかけになっていくのかもしれません。