激化するヘルステック分野 最前線を追う


GoogleやApple、Amazon、Facebook、Microsoftなど、大手IT企業が先端テクノロジーのノウハウを駆使し、医療デバイスの開発から医療システム改革まで、様々な形でヘルスケア市場での存在感を増しています。

医療分野でも注目されているAI(人工知能)やVR・AR(仮想現実・拡張現実)など、先端テクノロジーの活用を通して、ヘルステックの最新動向を見てみましょう。

Googleがリードする、非医療分野の大手参入競争

IT企業の医療市場参入のトップを走るGoogleの強みは、AIやVR・ARといった先端テクノロジーの開発力と、ユーザーから収集した膨大な個人情報やデータです。

高齢化など社会構造の変化と、既存の医療システムのギャップが問題視されている近年、現代の需要に合う新たな医療システムが求められています。

Googleは米非営利医療団体Ascension(アセンション)と共同プロジェクトを立ち上げ、21州のクリニックから収集した患者のデータを分析することで、この課題に取り組んでいます。

また、フィットネス・ウェアラブルデバイス米Fitbit社の買収を発表し、さらなるヘルスデータの収集とウェアラブルデバイス分野への参入を目論むなど、ライバルを大きく引き離すための動きが目立ちます。

Apple対Googleの火花が散る?ウェアラブルデバイス

スマートウォッチに代表されるウェアラブルデバイスは、ヘルステックで急成長している分野の一つです。

GoogleによるFitbit社の買収は、アメリカ合衆国司法省(DOJ)とオーストラリア競争消費者委員会(ACCC)の調査結果待ちですが、実現すれば世界のスマートウォッチ市場シェアの31.7%(独統計サイトStatista2019年データ)を占めるAppleにとって、大きな脅威となるでしょう。

一方で、AppleはWatch Series 4からECG(心電図)を搭載するなど、デバイスの機能面の充実に注力しているほか、医療機関における業務の効率化やコミュニケーションツールとして、iPhoneやiPad、Apple Watchのヘルスケア用途を強化するなど、独自の戦略を展開しています。

「Mi Watch」を欧米で展開する予定のXiaomiや、「Galaxy Watch 2」の発売を予定しているSamsungなど、アジア勢の進出も活発化しています。

AI、VR・ARが創るヘルスケアの未来

激戦が続く中、AIやVR・ARをヘルスケアの向上に役立てる動きが活発化しており、各IT企業の得意分野であるテクノロジーの活用法が注目されています。

VR・ARデバイスは外科手術のシミュレーションやトレーニング、リハビリ、遠隔治療など、すでに医療領域で広く活用されています。

2014年にVRスタートアップの米Oculus社を2億ドルで買収したFacebookは、「Facebook Reality Labs(旧Oculus Research)」を介して、触感を再現できるVR・AR用小型デバイス「Tasbi」の開発に成功しました。リストバンドのように手首に装着して、モノを扱う動作(触る、拾う、落とすなど)を行うことで、実際にモノに触れることなく、振動によって感触を再現するというものです。

AI×ARで画像診断の質を向上

近年は、AIとARを組み合わせることで、医療画像診断の質を向上させる動きも見られます。その一例が、非常に複雑な医学領域である放射線分野です。

コンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)、超音波、レントゲン、心電図などの検査から得た画像を、専門医が所見して診断を下すプロセスを「読影」と呼びます。

アイルランドのマーシー大学病院の放射線科医エイドリアン・ブレイディ博士が2017年に発表したレポートによると、読影は極めて難しい技術で、専門医でも異常を特定できなかったり、画像を誤って分析したりするミスが、毎日3~5%起きているそうです。

従来の読影では、専門医が2D画像を頭の中で3Dとして再構成し解釈していることが、ミスの原因である可能性があります。

医療用3Dイメージングデバイスを提供する米EchoPixel社は、検査結果の画像を3DCGに変換するソフトウェアプラットフォームを開発しました。

エラーを完全になくすことはできませんが、AR技術と画像診断をサポートするAI技術の併用は、読影の向上や最適な治療法の特定などに役立つと期待されています。

IT×金融×医療 異例のAIコラボレーション

他にも、AIは医療業務の効率化やインフルエンザなど感染病流行の予測、処方箋の選択、創薬の開発まで、様々な用途に活用されています。その中で、IT×金融×医療という異例のコラボレーションも生まれています。

「Haven(ヘイブン)」はAmazonとJPモルガン・チェース、バークシャー・ハサウェイが2018年に立ち上げた医療ジョイントベンチャーで、テクノロジーやデータを駆使して、従業員により良い低価格な医療サービスを提供することを目標にしています。

活動の詳細は明らかにされていませんが、AmazonのAIデータ分析技術と3社のネットワークを組み合わせた、最強のヘルスケアサービスになると予想されています。

プライバシー保護が最大の課題 今後の展望は?

テクノロジーとともに進化し続けるヘルスケアですが、ビジネスの境界線が消えつつあることで利便性が高まる反面、過去にはなかったような問題が浮上する可能性があります。

すでに米豪で調査を受けているGoogleの例からもわかるように、現時点における最大の懸念は、プライバシーの保護や市場における競争力の集中化です。

ウォールストリートジャーナル紙の報道によると、Ascensionとのプロジェクトだけでも、数百万人もの医療データが個人の同意を得ることなく流出することになります。Googleは個人情報が安全に保護されることを強調しているものの、どこまでプライバシーを保護することができるのかという点については疑問が残ります。

この問題をクリアするためには、市場における明確なガイドラインが必要になるでしょう。

大手企業とVR関連企業とのコラボレーションが活発化したり、スタートアップが独自の医療サービスを展開したりする可能性もあるため、今後ヘルステック分野での競争は激化すると思われます。

Photo by metamorworks on AdobeStock.com

 
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