999回より1回に賭ける トライ・アンド・エラーを楽しむ「熱帯植物栽培家」杉山拓巳さん Vol.2


熱帯植物研究家として、独自の活動を行っている杉山拓巳さん。
たとえ成功への確率が1000分の1だとしても、植物と向き合い、楽しみながら挑戦していくといいます。
今回は、そんなトライ・アンド・エラーへの取り組み方をうかがいました。

杉山拓巳
熱帯植物栽培家。BANKS Collection取締役COO。Indoorplants Tom’sを経て独立、創業。2015年TBSマツコの知らない世界、2016年NHKあさイチ「グリーンスタイル」2017年NHK趣味の園芸、NHKあさイチ「グリーンスタイル」などにも出演経験がある。
BANKS コレクション(https://bankscollection.com/)

 

独自の視点と理論で植物を栽培 常識は常識ではない?「熱帯植物栽培家」杉山拓巳さん Vol.1

–BANKS Collectionに携わる一方で、本業は熱帯植物の生産者である杉山さん。直近の活動をお聞かせください。

色々なことに挑戦してはいますが、いま一番力を入れているのは、新しい植物を作ること。例えば、
AとBという植物を交配すると、両方の要素を兼ね備えたものが誕生します。種苗会社と呼ばれる大きな会社ならどこもそれを実施してるんですが、僕は個人農家ですから同じことをやっても勝ち目はない。だから少しでも勝ち目のある、しかも馬鹿げた方向のことをやろうと思ってて、そこで思いついたのが強制的に突然変異を起こし、これまで存在しなかった植物を誕生させようという実験です。

–突然変異。それは例えば、本来ならば室内の暖かい環境で育てる植物を、雨風にさらしてストレスを与えたりする方法ですか?

そういったやり方もありますよ(笑)。本来、植物というのは芽がたくさんあるんですけど、動く芽はそれが優勢だからなんです。植物の先端にある頂芽の成長が、脇芽の成長より優先される現象を頂芽優勢というのですが、そのセオリーを壊してあげれば突然変異は起こります。すべての細胞、劣勢の芽に対しても「みんな動いていいですよ」という指令を出してあげることで、ワッと動き出す。我々の業界では劣勢はなにをどうやっても優勢に勝てないと言われているのですが、実はそんなことはないと思っています。やり方は二通りあって、まず、通常の生育の上で動かしてあげるというのが一つ。もう一つは、無菌の状態で生育する。無菌だと、劣勢遺伝も途端に動き出します。

–非常に複雑で、難しそうな挑戦ですね。

いえ、難しくもなんともないですよ。この実験は高校の農業科の生徒たちと一緒に進めてることなんです。ただ、植物で新しいものを生み出す時というのは、すごく不安定なので根気は必要となります。なにせ突然変異ですからね。だけどその不安定を固定していく作業がたまらなく好きだし、「あれ? 想像してたのとはちょっと違うけど、こんなのが出来ちゃった」というのが植物の面白いところだったりします。

今、ハオルシアという人気の多肉植物があるんですけど、それは通常緑色なんです。それをピンクにする実験を進めています。かなりいいところまでは来ているんですが、安定するまではあと3年かかってしまうかも。分化していない状態の植物細胞の塊をカルスというのですが、ピンクがかったところだけ選抜していくんです。その過程をどんどん詰めていくと、段々と色が濃くなってくる。一つできたらあとは簡単でどんどん増やしていくことができますよ。

–簡単なのに、なぜ誰もやっていないんですか?

誰もやり方を知らなかったからです。僕はそういう可能性を見つけるのが単純に好きなんですよ。みなさんは知らないからやらないだけで、それにロスも出てしまう。1000分の1の確率しかないということは、999は余分なものじゃないですか。999を捨てる覚悟で1を出すか出さないか。僕は覚悟を持ってやっているので、ほかを捨ててでも1にかけたい。

もう一つ、みなさんがやらない理由は仕事として考えてしまっているからかもしれません。良い品を
たくさん作ろう、それだけに気を持っていかれるとどうしても職人になってしまう。僕のしている実験はあくまでも仕事ではなくて遊びというカテゴリーだと思っているし、園芸を楽しみたいという気持ちの方が優っているので….。もちろんその遊びで将来的に面白い商売ができたらいいのになぁという夢もありますけど、宝くじ感覚ですよ。当たれば、御の字。

小学校4年生の時に書いた30歳の自分への手紙に「植物を交配してますか?」と書いていたぐらいなんで、もう本当。呆れるほど頭が悪い(笑)。でもなんだか今の遊び心と繋がってはいるのかな。

–お子さんの頃から植物が大好きだったんですね。

当時の自分が本気で植物好きだったかはわかりません。でも、うちの父は普通のサラリーマンだったんですけど、趣味で洋ランを集めていたんです。それに関連する場所にも連れていかれたりしていたので
父の影響が大きいのかもしれない。最初は僕も父と同じように、植物を集めることから始めました。だけど集めるだけではつまらないと感じるようになって、そこからですね。育てたい、作りたいと思ったのは。でも、まだ世界に認められた訳でもなんでもないのに、さっきから偉そうなことや意味不明なことばかり言ってすみません。一瞬我に返って恥ずかしさが押し寄せてきましたが、でも植物が大好きなんです。

–植物の生産者として世界で認められるようになるというのは、なかなか険しそうな道のりですね。

てっぺんを取りたいとか、一等賞を狙っているという訳ではないんですけどね。でも頭のどこかで、そういった気持ちを持ちながら植物に愛情を注いでいれば、売り上げなど含めてもっと納得できるのではないかなとは思います。

日本の植物は、島国の園芸なんですよ。僕はハワイ島の園芸にすごく近いと思っていて、何度も足を運べています。ハワイの園芸というのは生産者が好きなものを好きなだけ作っているので、少量多品種。必ず無菌のラボを持っていて、好きなものだけを増やしていってる。そんな中、新しいものを作り上げた人がその無菌苗を、本土に送って稼いでいる話を聞いたことがあります。

それいいな、なんか日本らしいなぁと思ったんです。園芸は今、売れない時代と言われていてどんどん落ち込んでます。それはなぜかというと、生産者が自分たちが売りやすい植物ばかり作ってしまったから。お客さんが本当に欲しいものはなにか? 耳を傾けていないような気がするんです。

園芸は本来趣味なので、楽しまなければいけない。だから僕は生産者という立場でありながらも、めちゃくちゃ楽しんで、トライアンドエラーをする。遠回りしているのかもしれないけれど、ゴールが同じならいいのかな、って。

>>経営のプロとの出会いと法人設立、そして今後の展望「熱帯植物育成家」杉山拓巳さんVol.3

(聞き手:永原 由香子 撮影:高橋 明宏)