外食産業に革新を与える、噂のクラウドキッチンとは?


米モルガン・スタンレーの調査によると、2017年時点に世界で6%ほどだったフードデリバリー率は、2022年までに11%にまで拡大すると予測されており、デリバリー市場は今後も成長していくことが見込まれています。

そうした中で現在注目を集めているのが、「クラウドキッチン」と呼ばれる新しいビジネスモデルです。

直近では、東南アジア最大手のライドシェアカンパニーである「Grab」も、クラウドキッチンのサービスを、タイやベトナムなどへと多国展開することを発表しています。

フードデリバリー業界に新しい風を巻き起こすクラウドキッチンとは、一体どのようなものなのでしょうか?

クラウドキッチンとは?「デリバリーサービスに特化した新しい飲食店の業態」


クラウドと名前に付くとオンライン上にあるサービスを連想しますが、クラウドキッチンは、デリバリーサービスに特化した新しい飲食店の業態を意味しています。

特徴的なのは、実店舗としての機能を削ぎ落としている点です。テーブルや椅子、飲食スペースや接客スタッフなどはおらず、全てウェブ上で注文を受け、料理はデリバリー専門の業者が配達するという業態を取っているのです。

また、クラウドキッチンの業態などで、実店舗を持たずに事業を展開する飲食店は、ゴーストレストランと呼ばれています。

クラウドキッチンとゴーストレストランは混同されがちですが、クラウドキッチンはデリバリーサービスに特化したサービスの業態そのものを意味することに対して、ゴーストレストランは、そうしたビジネスモデルを利用して事業を行う各飲食店、という意味合いで使い分けられることが多いようです。

国内ではまだ、クラウドキッチンに対する社会的な認知はそれほど進んでいないかもしれません。しかし、フードデリバリーが拡大しているインドなどでは、大型のクラウドキッチンを料理人に共有して使ってもらうという、ゴーストレストラン向けのシェアキッチンのビジネスモデルも拡大し始めています。

「箱ビジネス」という外食産業の根底を覆す、クラウドキッチンの波


こうして広がり始めているクラウドキッチンの波は、しばし、既存の外食産業を脅かすものになるとの声が上がっています。

例えば、これまでの外食産業の大きな特徴の一つは、「箱ビジネス」であるという点でした。売上が立地に大きく左右され、一度お店を作ると簡単には他の場所に移ることができないためです。

そのため、出来るだけ良いロケーションを選んで出店する必要がありますが、良い場所を選ぼうとするほど、賃料などのコストが膨らむことになります。

それに対して、デリバリー専門のクラウドキッチンは場所を選びません。家賃の低いエリアや、ビルの上層階のような人気の少ないテナントにもキッチンを構えることができます。さらに、キッチンスペースの賃料だけで済むため、コスト面で既存のレストランよりも圧倒的に優れているのです。

その意味で、デリバリーサービスにおいては、既存のレストランがクラウドキッチンに太刀打ちするのは難しくなっていくのかもしれません。

しかし、そうしたネガティブな声とは裏腹に、クラウドキッチンが普及することによって、料理人の活動の幅が広がるという声を耳にするようにもなりました。

料理人のマーケティング支援を行う、シェア型クラウドキッチン「Kitchen BASE」


その例の一つが、シェア型のクラウドキッチンとして中目黒に今年オープンした「Kitchen BASE」です。

「Kichen BASE」は現在、独立した4つの厨房設備を複数のゴーストレストランに月額制で提供しており、昼間はデリバリー向けの店舗として、夜中から早朝にかけては宅配弁当の仕込み場所として、というように昼と夜に分けてキッチンを運用しています。

そうした取り組みのなかでも特に興味深く感じるのは、「Kichen BASE」が入店者のマーケティング支援を行なっているという点です。

デリバリー注文は基本的にオンラインで行われるため、売上や客単価、そしてリピート率などの販売促進に活かすことのできるデータがウェブ上に蓄積されていきます。「Kichen BASE」は、そうしたデータを独自のシステムで分析し、その結果を各ゴーストレストランのシェフにフィードバックしているのです。

そのおかげで、入店しているゴーストレストランのシェフたちは客観的に経営を見直すことができ、データに基づいたメニューの改善などを行うことができるようになりました。

また、運営に必要となるデリバリー専門業社とのやり取りや、配達要員の確保なども「Kitchen BASE」側で行っているため、料理人が料理に集中することができるような環境が整っているのだと言います。

外食産業は、個人でも戦うことができる業種の一つ


「Kitchen BASE」のようなシェア型のクラウドキッチンは、料理人が独立する敷居を下げるビジネスモデルだと言うことができるかもしれません。

これまでの外食産業は、開業コストが高く、独立するためには多くの時間が必要になる業種でした。お店を作ることに加え、厨房などは重装備になるため、都内でお店を始めようと考えると数百万円から一千万円ほどかかると言われています。

しかも、それだけの初期費用がかかるにも関わらず、廃業率も高いというハイリスクな業界です。その背景には、商品の企画、仕入れ、人事管理、広報など、料理以外に求められるスキルや知識の幅が広いという理由があるのだそうです。

その一方で、シェア型のクラウドキッチンなどを借りれば、開業コストを抑えて、個人でも少ないリスクで事業を展開することができます。また、料理人だけをしていては身につかないような、経営に関する知識を得ることもできることでしょう。

外食産業は、全体で25兆円ほどの大きな市場を持ちながら、売上高トップの「ゼンショー」でさえ市場全体の2%しか占めることができていないと言われるほど、大手企業による寡占が少ない産業です。そのため、開業コストさえクリアすることができれば、個人事業主でも戦いやすい業界であると考えることができます。

その意味では、独立するハードルやリスクを下げるクラウドキッチンが普及することによって、料理人の活躍の幅が広がり、新しい成功のモデルが誕生していくのかもしれません。